2024年7月3日
日本国家公務員労働組合連合会
書記長 浅野 龍一
1 政府は6月28日、2025年度以降の定員管理政策として、「国の行政機関の機構・定員管理に関する方針」(2014年7月25日閣議決定)の一部変更を決定した。
現在につながる定員合理化の潮流は、2004年12月に閣議決定された「今後の行政改革の方針」を起点として、まったく鎮静化することなく激化してきた。そうした政府の定員管理政策に伴い、国の行政機関の人的体制は脆弱化の一途をたどり、行政機能の低下や行政サービスを享受する国民の不利益ばかりでなく、①職員の超過勤務に依存した恒常的な長時間労働、それに伴う健康被害と長期病休者の増大、②新規採用の縮減による年齢別人員構成の不均衡と組織の専門的な能力の減退、③定員外である非常勤職員の増大と「官製ワーキングプア」の蔓延など、さまざまな弊害を招いてきた。
国公労連は、各府省の定員合理化目標数が2024年度に終了することを踏まえ、これまでの定員管理政策の結果をゼロベースで検証するとともに、「国家公務員の総人件費に関する基本方針」(2014年7月25日閣議決定)などの撤回をはじめ、最低でも2025年度以降の定員合理化目標数の検討を中止するよう政府に求めてきた。
2 今般の一部変更は、「府省の枠にとらわれない定員の再配置」という旧態依然の定員管理政策を踏襲しており、到底容認できるものではない。
一方で、「定員管理の方針」では若干の修正が講じられている。とりわけ特徴的なこととして、「各府省は、令和7年度以降、5年ごとに基準年度を設定して、…府省全体で、対基準年度末定員比で5年間で5%(年平均1%)以上を合理化する」とし、「内閣人事局は、…5年ごとに各府省の合理化目標数を決定…する」ことを維持しているものの、これまで「毎年2%(5年10%)以上」としていた割合を半減させている。
また、「国家公務員の人材確保が困難化する」ことなどを踏まえ、「中期的な行政DXで特に効果が高い取組を行う場合には、…その省力化等の効果が発現するまで、…合理化目標数の一部を猶予する」「各府省は、…組織内における行政需要の変化を反映して、…新規増員の抑制を図りつつ、必要な場合には増員要求を行うこととする」「内閣人事局は、…必要な場合には、行政の重要課題を担う業務について定員の合理化数を上回る増員を行う」などとし、これまで「府省の枠を超えて、大胆に定員の再配置を推進する」「新規増員は、…特に必要が認められる場合に限ることとする。各府省は、既存業務の増大への対応に当たっては、自律的な組織内の再配置によることを原則とし、新規増員は厳に抑制する」などとしてきた厳格な定員管理は撤回され、不十分ながらも柔軟に増員要求できるものとなった。
さらに、「各府省は、…きめ細かな人員配置、長時間労働の是正のための勤務時間管理と業務見直し・効率化等に取り組むこととし、内閣人事局は、産休・介護休暇等の代替要員の確保、突発事案への対応の際の長時間労働の抑止等、人事管理上必要となる場合に定員の措置を適切に行う」としており、新たに「人事管理上の課題等への対応」を反映している。
こうした政府の姿勢の変化は、公務・公共サービスの拡充に向けた国公労連の運動、それらに結集する各職場・組合員のとりくみ、さまざまな組織・団体による支援などの成果である。
3 各府省の2024年度定員の審査結果は、政府全体で7,354人の増員となり、4年連続の純増となった。政府が総人件費抑制政策を推進しているにもかかわらず、その当事者である各府省が定員の純増要求という是正の措置を講じざる得なくなってきたことは、これまでの定員管理政策がすでに破綻していることの証左であった。
各府省は、こうした純増を確保するため、「新たな行政需要」を自ら捻出する一方で、定員合理化の要素となり得る業務の縮減には消極にならざるを得ない。定員合理化目標数を前提とした「定員の再配置」は、適正な人的体制を確保できないまま業務の肥大化を招いており、さまざまな弊害を助長しながら、国民のニーズに適応するための組織体制を崩壊させてきた。
2004年度から2024年度までの国の一般会計予算と定員を比較すれば、年度当初の歳出予算が約137%に増加しているにもかかわらず、定員は約92%にまで減少している。過去20年間の推移として、相対的に両者が反比例していることは、国の行政の事業規模が拡大するに伴って、それに見合った増員が措置されてこなかったことを裏付けている。
4 近年は、国家公務員の志願者の減少や若年層の離職の増加など、「若者の公務員離れ」が加速度的に深刻化している。将来的に生産年齢人口が減少していくなかにあって、安定的に人材を確保するためには、長時間労働の解消やワークライフバランスを推進するための人的体制とともに、民間企業と比較しても魅力のある職場環境を確保することが不可欠である。
人事院が2023年4月に公表した「超過勤務の縮減に係る各府省アンケートの結果」では、圧倒的多数の府省が「恒常的な人員不足の部署があった」と回答し、「定員が不足していた」ことを超過勤務の要因とするとともに、定員の増加・新設や合理化目標数の緩和などを要望している。長時間労働の是正に当たって、職場の人的体制の拡充、すなわち政府の定員管理政策の抜本的な転換が不可欠であることは、各府省の認識としても顕在化してきた。とりわけ定員合理化が激化した2004年からの20年間は、業務の縮減・簡素化、ICT化、民間委託化などをくり返してきたため、もはや「業務見直し・効率化」、むやみな「行政DX」などで長時間労働を是正できる余地もない。
5 能登半島地震の発生から6か月以上を経過したものの、その復旧・復興に従事する職員が圧倒的に不足している。こうした大規模な自然災害などが発生するたびに指摘されることは、国の出先機関をはじめ、地方自治体や公的医療機関の人的体制など、過剰な行政合理化の弊害であり、それらがあらためて顕在化した。
政府の定員管理政策は、規制緩和をはじめとする新自由主義的な「構造改革」路線に基づき、市場化テストによる公務の民間開放や国の出先機関の地方移譲などと一体的に実施されてきたことを踏まえれば、国の行政責任を放棄するものでしかない。
国公労連は、定員合理化を継続する政府の決定に断固抗議するとともに、こうした「行政改革」が招いた弊害を是正するため、これまでの定員管理政策を早急かつ抜本的に転換するとともに、国家公務員を大幅に増員し、国民本位の行財政・司法を確立することをあらためて求める。また、これまでの諸行動に参加した全国の組合員の奮闘は、公務・公共サービスの拡充に向けた世論の構築に結実していることを確信するとともに、さらなる運動への結集をすべての仲間に呼びかける。
以 上