国公労新聞|2023年9月25日号|第1612号

【秋年闘争のポイント】
全員参加型で市民との共同を
浅野書記長にインタビュー

将来不安の払拭へ暮らし守る共同を

Q 今の情勢の特徴について教えてください。

A 7月の毎月勤労統計調査によると、現金給与総額(名目賃金)に物価の変動を反映させた実質賃金は、前年同月比2.5%減となりました。マイナスは16か月連続で、賃金の伸びが物価の高騰に追いつかない状況が続いています。7月の家計調査によると、1世帯(2人以上)当たりの消費支出は28万1736円と、物価変動の影響を除いた実績で前年同月比5.0%減少しました。マイナスは5か月連続で、物価高を背景に節約志向が強まっており、減少幅は2021年2月(6.5%減)以来の大きさとなりました。8月の企業倒産件数は前年同月比54.5%増の760件で、17か月続けて前年同月を上回りました。増加率は2020年のコロナ禍以降で最大を更新し、実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」の返済が本格化するなか、全産業で件数が増えました。2023年4〜6月期の国内総生産(GDP、季節調整済)改定値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比1.2%増、この成長が1年続いた場合の年率換算で4.8%増となりました。プラス成長は3四半期連続となっていますが、企業による設備投資がマイナスに転落したほか、個人消費も下げ幅を拡大しました。
 いずれの政府統計を見ても、今日の国民生活の困窮を裏付けています。大企業の内部留保が過去最高を更新する一方で、実質賃金の減少と物価の上昇などによって個人消費は落ち込み、国民にはかつてない将来不安が広がっています。23秋季年末闘争では、物価・賃金問題で国民との連帯と共同を大きく拡げた運動が求められています。

23人勧の給与改善早期実施へ追及強化

Q 23人勧の取扱いはどうなっていますか?

A 人事院は、今年の勧告で俸給表の水準は0.96%(3869円)、一時金は0.10月分の改善を勧告しました。この勧告は、物価上昇分にも満たず、23春闘で「緊急勧告」を求めるほど困窮する職員の生活改善に及ばない不十分なものですが、物価上昇が続くなかで給与改善部分の早期実施は組合員の切実な要求となっています。
 今年の給与の取扱いについて、政府は8月7日、第1回の給与関係閣僚会議を持ち回りで開催しています。同会議においては、人事院勧告制度を尊重するとの基本姿勢に立って、国政全般の観点から給与関係閣僚会議において検討を進め、早急に結論を出す必要がある旨確認されています。
 岸田政権が巨額の防衛費を確保するために「歳出改革」をねらっていることや、公務員に批判的な日本維新の会の勢力が増していることなど、公務員の人件費をめぐる状況も予断を許さないことからも、給与改善部分の早期実施を求める政府追及を強めます。

給与制度のアップデート 賃金格差是正へ追及

Q 今後、「給与制度のアップデート」はどのようになりますか。

 「公務員人事管理に関する報告」では、「給与制度のアップデート」の「骨格案」が報告されました。人事院は、2024年にその時点で必要な措置の成案を示し、施策を講ずることとしています。
 給与制度のアップデートの課題は、社会と公務の変化に応じた側面もありますが、2005年勧告の給与構造の改革や2014年勧告の給与制度の総合的見直しなどのドラスティックな制度改変によって生じた給与制度の歪みやひずみ、不合理な賃金格差を是正する側面もあると考えます。国公労連は、給与制度のアップデートが、①あらゆる不合理な賃金格差を解消・是正する方向、②全世代の職員のモチベーションを向上させる方向、③能力・実績主義を解消・是正する方向で改善されるよう引き続き人事院を追及します。
 人事院として十分な制度検証を行い、「職員の納得性」を最重視して検討するよう求めるとともに、労働組合との合意を前提とした交渉・協議を求めます。

市民との共同実践で公務・公共体制拡充

Q 公務・公共体制拡充運動はどのようにすすめますか?

A コロナや自然災害などへの対応などにより公務員の役割が国民・住民の皆さんの中に、期待や信頼が広がっています。「公務・公共サービスの拡充を求める請願署名」の紹介議員が年々増えており、各単組の請願署名の国会採択、3年連続の純増査定など、私たちの運動は国民・住民の支持を受けて着実に前進しています。
 国公労連は、全労連が提起する公共を取り戻すとりくみと一体で、公務・公共体制の拡充運動、行政民主化運動を推進します。とりわけ、公務・公共サービスを必要とするステークホルダー(利害関係者)とのつながりをいかした市民との共同を実践します。来年の通常国会での請願採択をめざす個人署名とあわせて、2025年度から5年間の定員合理化目標数策定を阻止するため、新たに政府宛ての「新たな定員合理化目標数の検討の中止を求める要請署名」(団体署名)を12月から2月にかけてとりくみます。また、来年度の定員要求(政府全体で7121人、純増1082人)の満額確保にむけて、予算査定期での政府・当局追及を強めます。

全員参加型の運動で秋の組織拡大強化を

Q 秋の組織拡大強化月間のとりくみはどのようにすすめますか?

A 国公労連は、組合員一人ひとりが持つ多様な「資源」を有効に活かした全員参加型の運動を推進します。また、全員参加型の運動を推進するためには職場や地域において運動を主体的にすすめるリーダーが必要であることから、各組織は日常活動をすすめるなかでそのようなリーダーを発見し、勧誘し、育てていくという「人づくり」のサイクルを実践し、対話と学習・教育活動を強化して体制の基礎固めをすすめます。
 「組織強化拡大3か年計画」の目標達成のため、10月〜12月の秋の組織拡大強化月間におけるとりくみを強化します。具体的には、秋闘では各単組がそれぞれの定期大会時の組合員数を上回る組織拡大を達成することを目標とし、正規・非正規・再任用などすべての職員を対象とした対話と脱退防止のとりくみをすすめます。とりわけ、10月の新規採用職員と4月の新規採用職員の未加入者への重点的なはたらきかけと、異動などに伴う脱退防止策を積極的に講じるとともに、来年の春闘を視野にいれた支部・分会体制の基盤づくりをすすめます。

23人事院勧告の取扱い
給与改善の早期実施求め政府中間交渉

 国公労連は9月14日、単組書記長などの参加のもと、8月7日に提出した「2023年人事院勧告の取扱い等に関する要求書」に基づく政府との中間交渉を実施しました。
 内閣人事局の山村総括参事官は、その検討状況として、「今後、適切な時期に給与関係閣僚会議が開催される。人事院勧告制度を尊重するとの基本姿勢のもと、国政全般の観点や社会一般の情勢を踏まえ、総合的に検討を進める」「フレックスタイム制のさらなる柔軟化も併せて検討を進めている」と回答するにとどまりました。
 また、①長時間労働の是正、②健康・安全確保、③定年引上げなどの高齢期雇用なども従前どおりの回答に終始しました。とりわけ定員管理政策については、「新たな行政ニーズに対応するとなれば、既存の業務の見直しが不可欠である。そのためには定員の再配置が必要であり、定員合理化という措置を講じなければならない」として、これまでの政府方針に固執する姿勢を明確にしています。
 一方で、非常勤職員の勤務条件は、「無期転換ルール」の創設や「3年公募要件」の撤廃を否定しつつも、人事院が表明した「有為な人材を安定的に確保する」ための「非常勤職員制度の適切な運用の在り方」について、「人事院における検討を踏まえ、適切に対応してまいりたい」と回答しています。
 国公労連からは、①僅か0.96%という給与改善は、民間の春闘相場と乖離しており、人事院勧告制度の構造的問題を疑わざるを得ない、②フレックスタイム制のさらなる柔軟化(選択的週休3日制)は、勤務間のインターバル確保と矛盾しかねない、③「新たな行政需要」を捻出する定員要求と定員合理化・再配置という仕組みは破綻しており、行政体制を崩壊させている、④非常勤職員制度の見直しに当たっては、既存の概念を払拭し、抜本的な改善を検討すべきであることなどを強調しました。
 各単組からは、①適正な職務評価に基づく俸給表の抜本的な改善が必要である、②人事院勧告に反映されなかった通勤手当などの改善が喫緊の課題である、③長時間労働の是正の観点からも新たな定員合理化目標数の検討を中止すべきである、④現在の非常勤職員制度では、「働くルール」を無視した運用が横行していることなど、それぞれの職場実態を踏まえた主張を展開しました。
 最後に浅野書記長は、国家公務員法が定めた「情勢適応の原則」を重視し、給与勧告の改善部分を早期に実施することを求めて交渉を終了しました。
 人事院勧告に基づく給与法などの改正法案は、10月中旬頃に召集される臨時国会への提出が見込まれています。国公労連は、そのスケジュールを念頭に最終交渉などでの追及を強化していくこととしています。

勝利和解 勝ち取る
国立ハンセン病資料館不当解雇撤回闘争

 国公労連では、これまで国公一般の国立ハンセン病資料館分会がたたかっている学芸員2人の不当解雇撤回闘争を支援してきました。これは厚生労働省が委託している国立ハンセン病資料館の受託者の変更に伴い、労働組合を結成した組合員で学芸員の稲葉上道さん大久保菜央さんを不当に不採用として職場から追放した事件です。東京都労働委員会では2人の職場復帰を命じる救済命令を勝ち取りましたが、笹川保健財団が中央労働委員会に再審査を求めてたたかっていました。9月13日に中労委で開かれた第8回目の調査期日において勝利和解しました。
 今回の和解は、職場復帰を第一に求めていた組合員2人の職場復帰と引き換えに、国立ハンセン病資料館分会が笹川保健財団に求めてきた、①国立ハンセン病資料館の設立の経緯や目的を忘れることなく、全国ハンセン病療養所入所者協議会(全療協)を含むハンセン病療養所入所者・元患者及びその家族の意向を尊重し資料館の管理運営を行うことを約束すること。②笹川保健財団が認めなかった資料館内での組合活動を認めることや、義務的団交事項以外についても要望書を提出できること。③資料館の運営について、労働組合の意見を反映させる機会を保障すること。④ハラスメント防止のための環境整備、また外部の通報窓口の設置などの対策をとること。などを認めさせる内容です。どれも当たり前の内容ですが、これを笹川保健財団に認めさせることが相当な難題となっていました。
 今回、2人の職場復帰はかなわなかったものの、これまで求め続けてきた国立ハンセン病資料館内における労働環境の改善や、運営の正常化の実現につながる和解内容を勝ち取ったことと、労働組合が求めた額に近い解決金を勝ち取ることができた点も含め、全面的な勝利和解となりました。
 今回の事件で公務の業務委託に伴う労働者の不安定雇用の問題が明らかになりました。毎年の受託に伴い、使用者の気に入らない労働者を排除するということはあってはなりません。また、委託元である厚生労働省が、都労委で不当労働行為を認定された笹川保健財団を今年も管理・運営業者として選定していることは、大きな問題でもあります。引き続き国立ハンセン病資料館分会では労働条件や労働環境の改善と資料館の正常な運営を求め奮闘します。

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