物価上昇分に満たない[月例給0.96%一時金0.1月改善]勧告、俸給表全体の改定も生活改善に及ばず~2023人事院勧告にあたっての声明

2023年8月7日
国公労連中央闘争委員会

 人事院は本日、政府と国会に対して、国家公務員の給与に関する勧告・報告、職員の勤務時間の改定に関する勧告、公務員人事管理に関する報告を行った。官民較差は、月例給、一時金ともにプラスとなり、俸給表の水準は0.96%(3869円)、一時金は0.10月分の改善を勧告した。1997年の勧告で改定率が1%を超えたのを最後に、それ以降マイナス勧告を含め低額勧告が続いてきた。今回26年ぶりに1%に近い改定率であっても、実質賃金の低下は回避できない。
 この勧告の背景には、2023年春闘で国民春闘共闘委員会・全労連に結集する民間労働者が、ストライキ権の確立・行使を含む交渉力を発揮し、単純平均額で2001年春闘以来の6000円台の賃上げを勝ち取った運動の成果がある。勇気ある民間労働者の奮闘に心より敬意を表するものである。

 しかしながら、今年の勧告は、物価上昇分にも満たず、23春闘で「緊急勧告」を求めるほど困窮する職員の生活改善に及ばない不十分なものであった。また、コロナ禍や頻発する自然災害への対応をはじめ、国民のいのちやくらし、権利を守るために現場第一線で奮闘している職員の労苦や期待に応えていない。民間準拠に固執した勧告では、人事院が国家公務員の労働基本権の代償機関としての役割を果たしているとは言い難く、極めて不満である。また、官民給与比較方法の在り方をはじめ、日本の低賃金構造を固定化する人事院勧告制度の問題点を改めて指摘せざるを得ない。公務員給与の決定システムの見直しを行うとともに、「自律的労使関係制度」の創設をはじめとした公務員の労働基本権の全面回復を求める。
 今年の勧告は、初任給をはじめ若年層の給与改善に重点を置きつつも、俸給表全体の改定となったことは、私たちの運動の一定の成果である。また、若年層職員の生活改善はもとより、国家公務員志望者の減少、若年層職員の中途退職の増加に歯止めをかけるために初任給の改善(高卒1万2000円、大卒1万1000円)に重点を置いたことは一定受け止める。しかしながら、7月28日に中央最低賃金審議会が今年の最賃改定を全国加重平均1002円(4.3%)に引き上げる目安を答申しており、国家公務員の高卒初任給が地域別最低賃金を下回る地域はなお残存するため、その解消と地域間格差の解消・是正は喫緊の課題である。
 一時金の官民較差については、期末手当に0.05月、勤勉手当に0.05月均等に配分した。人事院はこの間、民間の一時金の支給割合に準拠し、勤勉手当に重点配分してきた。国公労連は、職員の生活改善が急務である現状からすれば、成績査定分に相当する勤勉手当に配分するのではなく、生活補給金に相当する期末手当に配分する方が情勢に適応していると主張し、期末手当への重点配分を要求してきた。今回期末手当に配分されたことは私たちの運動の成果であるが、一方で勤勉手当への配分も継続しており、人事院の能力・実績主義強化の姿勢は依然として変わっていない。
 諸手当について、再任用職員と非常勤職員の生活関連手当の支給、特別料金の全額支給をはじめとする通勤手当の改善は、2023年度中に実現することを求めてきたが、今年の勧告に何ら反映されていないことは極めて不満である。とりわけ通勤手当は、円滑な人事異動や長時間通勤などに伴う職員の健康管理、仕事と家庭の両立支援にも関連する課題である。職員の経済的負担の軽減ばかりでなく、各府省の人事管理そのものにも影響することも踏まえ、早急に改善の措置を講じることを求める。

 「職員の勤務時間の改定に関する勧告」では、フレックスタイム制の活用による「ゼロ割振り日」の導入、「公務員人事管理に関する報告」では、社会と公務の変化に応じた給与制度の整備(以下、「給与制度のアップデート」)の「骨格案」、柔軟な働き方の見直し(フレックスタイム制のさらなる柔軟化、勤務間インターバルの確保、夏季休暇取得期間の拡大、年休15分単位の取得等)、仕事と家庭の両立支援、ゼロ・ハラスメントに向けた取組などについて報告されている。なお、夏季休暇取得期間の拡大、年休15分単位の取得については、国公労連の要求が反映されており私たちの運動の成果である。
(1) 給与制度のアップデートの「骨格案」は、①人材の確保への対応、②組織パフォーマンスの向上、③働き方やライフスタイルの多様化への対応の3つの課題に沿って報告されており、2024年にその時点で必要な措置の成案を示し、施策を講ずることとしている。このうち、在宅勤務等手当の新設については、国公労連が実費弁償の観点を含め多くの問題点を指摘していたにもかかわらず、何ら見直すこともなく今回先行的に勧告されたことは不満である。
 給与制度のアップデートの課題は、社会と公務の変化に応じた側面もあるが、2005年勧告の給与構造の改革や2014年勧告の給与制度の総合的見直しなどのドラスティックな制度改変によって生じた給与制度の歪みやひずみ、不合理な賃金格差を是正する側面もある。国公労連は給与制度のアップデートが、①あらゆる不合理な賃金格差を解消・是正する方向、②全世代の職員のモチベーションを向上させる方向、③能力・実績主義を解消・是正する方向で改善されるよう引き続き人事院を追及する。人事院として十分な制度検証を行い、「職員の納得性」を最重視して検討するよう求めるとともに、労働組合との合意を前提とした交渉・協議を求める。
(2) 柔軟な働き方、とりわけフレックスタイム制の柔軟化やテレワークの利用などは、労働力や労働時間の分散を伴うため、公務・公共サービスの低下を回避するためには、何よりも人的体制の拡充が不可欠である。
 勤務間インターバルの確保は、新たな施策として人事院規則に努力義務が定められることとなった。超過勤務の上限規制をさらに厳格化する必要があることなどを踏まえれば、長時間・過密労働、恒常的な超過勤務に依存してきた国の行政機関の組織体制を是正することを基軸として、業務改革や職場環境の整備などが先行して実施されなければならない。
 長時間労働の是正に当たっては、定員管理政策の抜本的転換が不可欠であることを踏まえ、総定員法の廃止、定員合理化計画の中止とともに、行政需要(業務量)に見合う大幅な増員を求める。
(3) 非常勤職員の課題について、「各府省の実態等を把握しつつ、非常勤職員制度の適切な運用の在り方等について検討を行っていく」と報告している点は前進面ではあるが、今回も具体的な改善措置には触れられておらず、極めて不満である。政府が「経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太方針)」に「同一労働・同一賃金制の施行の徹底と必要な制度見直しの検討等を通じて非正規雇用労働者の処遇改善を促」すと掲げていることを踏まえれば、国の職場においても安定雇用と均等・均衡待遇の実現にむけて抜本的な改善措置を講じるべきである。とりわけ、「3年公募要件」の撤廃、「無期転換ルール」の創設、任用当初からの年次休暇の付与、病気休暇の有給化などは喫緊の課題であり、改めて早急な改善を求める。

 今後のたたかいは、政府との交渉へと移る。全労連・国民春闘共闘委員会は、社会的な賃金闘争として公務員賃金改善を前面に押し出しており、最賃闘争と結んで官民一体での運動が全国に広がっている。一方で、大軍拡・大増税を狙う岸田政権は、巨額の防衛費の財源確保のために「歳出改革」をすすめるとしており、公務員の人件費が削減される危険性も強まっている。こうした情勢のもとでとりくまれる2023年秋季年末闘争は、早期の給与改善を求めるとりくみとともに、24春闘の準備、給与制度のアップデートを中心とした24人勧に向けたたたかいもスタートすることになる。
 人勧期のたたかいに奮闘された全国の仲間のみなさんに心から敬意を表するとともに、引き続く国公産別のたたかいへの結集を呼びかける。

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