出入国管理及び難民認定法改正案の廃案を求める(談話)

2023年5月16日
日本国家公務員労働組合連合会
書記長 浅野 龍一

 政府は本年3月7日、「出入国管理及び難民認定法等の一部を改正する法律案」(以下「本改正案」という)を第211回通常国会に提出した。同年5月9日には、多くの当事者とその支援団体、法曹資格者や有識者などが改悪に反対しているにもかかわらず、衆議院において本改正案の可決が強行され、同月12日に参議院における審議が開始された。
 国公労連は、普遍的に尊重されるべき外国人の人権状況を憂慮するとともに、法務省・出入国在留管理庁の職員を組織する労働組合として、重大な欠陥をはらんだ本改正案の廃案を求めるものである。

 本改正案の諸問題は、これまでさまざまに指摘されているところ、とりわけ難民認定手続中の送還停止効の例外や送還忌避罪を設けることは、難民の地位に関する条約第33条(追放及び送還の禁止)などにより確立された「ノン・ルフールマン原則」に違反し、非正規滞在者の生命や身体を危険に晒すことになりかねない。そもそも政府の強硬な姿勢は、いわゆる送還忌避者が犯罪者やテロリストであるかのような印象操作により国民の危機意識を過剰に煽っているものに過ぎない。政府が指摘する送還忌避者や難民認定申請をめぐる諸課題は、むしろ国際基準を逸脱した日本の難民認定審査や厳格な在留特別許可の実態などに起因するものであり、本改正案の立法事実として社会的にも通用しない。
 また、仮放免制度の運用を是正し、新たに監理措置制度を設けることとされているものの、就労の禁止により経済的な困窮に陥り、国民健康保険や生活保護などの諸制度も適用されない実態は放置され、依然として生存権の侵害を解消し得るものとはなっていない。監理措置制度は、収容施設からの解放、すなわち人身の自由を交換条件として、主に親族、弁護士をはじめとする支援者などの監理人に在留管理を担わせるという歪んだ「公務の民間開放」であり、悪質な「監理人ビジネス」の横行も招きかねない。
 これらの前提となる収容施設の劣悪な処遇の実態は、政府が指摘する仮放免中の逃亡者数の増加という悪循環につながっている。2007年以降は、全国の収容施設において18人の非正規滞在者が死亡し、その内6人の死因が自死であるという報告も存在する。地方出入国在留管理局の極めて強権的かつ不透明な裁量をもって、司法の関与もないまま人身の自由を剥奪し、無期限の懲罰的な収容を可能とする現行制度こそ是正されなければならず、医療体制をはじめとした生活環境の改善を先行的に措置すべきである。

 こうした出入国在留管理と難民認定をめぐる諸課題を解消するに当たって、本改正案は、およそ実効性を期待できないばかりでなく、むしろ外国人の人権侵害を助長し、さらなる国際的な批判を招くおそれがある。出入国在留管理行政のあるべき姿として、本国の迫害などから逃れた当事者の人権を擁護する難民認定は、外国人の人権を制限する傾向にある出入国在留管理から分離・独立した行政機関が所管し、収容をはじめとする人身の自由の制限に当たっては、司法の判断を介在させるシステムを構築すべきである。
 さらに、そうした行政機関を確立することはもとより、現行の人的体制の脆弱性を解消することも喫緊の課題である。多くの有識者などが必要性を指摘している出入国在留管理庁の職員の人権教育や難民調査官の能力向上などは、組織の人的体制を拡充することなく実現し得ない。国際的な批判に晒されている出入国在留管理行政への従事を余儀なくされ、国家公務員として職務を遂行せざるを得ない職員の過重な精神的負担や労働環境の悪化も危惧される。
 一方で、2021年3月に名古屋出入国在留管理局管内において発生したスリランカ人女性の死亡事件をはじめ、収容施設におけるさまざまな人権侵害の実態は、個々の職員の資質や意識などではなく、過去からの組織体質などの構造的な問題に起因しているという指摘もある。組織のガバナンスを向上させるに当たっては、収容施設の運営を担う入国警備官の労働基本権を保障し、民主的な観点から国家権力を監視することが不可欠である。

 厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所は本年4月26日、2070年の日本の総人口が約8,700万人にまで減少し、その10.8%が外国人となる将来推計を公表した。日本の労働力人口の減少が懸念されている一方で、さらにグローバル化が進展することを踏まえれば、欧米諸国のような多民族・多文化共生社会を早急に実現しなければならない。法務省が設置した「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」における議論との整合性を踏まえつつ、外国人の適正な労働条件や生活環境などを確保すべきである。
 本改正案は、参議院において徹底的に審議し、そこに内在する根本的かつ構造的な諸問題を顕在化させるとともに、一旦は廃案とした上で、国際基準と日本国憲法を遵守した外国人の人権擁護を実現するため、出入国在留管理及び難民認定法の抜本的な改正を求めるものである。

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