国公労新聞|2023年8月10日号|第1609号(人勧特集号)

物価上昇分に満たない【一時金0.1月改善月例給0.96%】 勧告
俸給表全体の改定も生活改善に及ばず

声 明

「給与制度のアップデート」骨格示す

 人事院は本日、政府と国会に対して、国家公務員の給与に関する勧告・報告、職員の勤務時間の改定に関する勧告、公務員人事管理に関する報告を行った。官民較差は、月例給、一時金ともにプラスとなり、俸給表の水準は0.96%(3869円)、一時金は0.10月分の改善を勧告した。1997年の勧告で改定率が1%を超えたのを最後に、それ以降マイナス勧告を含め低額勧告が続いてきた。今回26年ぶりに1%に近い改定率であっても、実質賃金の低下は回避できない。
 この勧告の背景には、2023年春闘で国民春闘共闘委員会・全労連に結集する民間労働者が、ストライキ権の確立・行使を含む交渉力を発揮し、単純平均額で2001年春闘以来の6000円台の賃上げを勝ち取った運動の成果がある。勇気ある民間労働者の奮闘に心より敬意を表するものである。
 しかしながら、今年の勧告は、物価上昇分にも満たず、23春闘で「緊急勧告」を求めるほど困窮する職員の生活改善に及ばない不十分なものであった。また、コロナ禍や頻発する自然災害への対応をはじめ、国民のいのちやくらし、権利を守るために現場第一線で奮闘している職員の労苦や期待に応えていない。民間準拠に固執した勧告では、人事院が国家公務員の労働基本権の代償機関としての役割を果たしているとは言い難く、極めて不満である。また、官民給与比較方法の在り方をはじめ、日本の低賃金構造を固定化する人事院勧告制度の問題点を改めて指摘せざるを得ない。公務員給与の決定システムの見直しを行うとともに、「自律的労使関係制度」の創設をはじめとした公務員の労働基本権の全面回復を求める。
 今年の勧告は、初任給をはじめ若年層の給与改善に重点を置きつつも、俸給表全体の改定となったことは、私たちの運動の一定の成果である。また、若年層職員の生活改善はもとより、国家公務員志望者の減少、若年層職員の中途退職の増加に歯止めをかけるために初任給の改善(高卒1万2000円、大卒1万1000円)に重点を置いたことは一定受け止める。しかしながら、7月28日に中央最低賃金審議会が今年の最賃改定を全国加重平均1002円(4.3%)に引き上げる目安を答申しており、国家公務員の高卒初任給が地域別最低賃金を下回る地域はなお残存するため、その解消と地域間格差の解消・是正は喫緊の課題である。
 一時金の官民較差については、期末手当に0.05月、勤勉手当に0.05月均等に配分した。人事院はこの間、民間の一時金の支給割合に準拠し、勤勉手当に重点配分してきた。国公労連は、職員の生活改善が急務である現状からすれば、成績査定分に相当する勤勉手当に配分するのではなく、生活補給金に相当する期末手当に配分する方が情勢に適応していると主張し、期末手当への重点配分を要求してきた。今回期末手当に配分されたことは私たちの運動の成果であるが、一方で勤勉手当への配分も継続しており、人事院の能力・実績主義強化の姿勢は依然として変わっていない。
 諸手当について、再任用職員と非常勤職員の生活関連手当の支給、特別料金の全額支給をはじめとする通勤手当の改善は、2023年度中に実現することを求めてきたが、今年の勧告に何ら反映されていないことは極めて不満である。とりわけ通勤手当は、円滑な人事異動や長時間通勤などに伴う職員の健康管理、仕事と家庭の両立支援にも関連する課題である。職員の経済的負担の軽減ばかりでなく、各府省の人事管理そのものにも影響することも踏まえ、早急に改善の措置を講じることを求める。
 「職員の勤務時間の改定に関する勧告」では、フレックスタイム制の活用による「ゼロ割振り日」の導入、「公務員人事管理に関する報告」では、社会と公務の変化に応じた給与制度の整備(以下、「給与制度のアップデート」)の「骨格案」、柔軟な働き方の見直し(フレックスタイム制のさらなる柔軟化、勤務間インターバルの確保、夏季休暇取得期間の拡大、年休15分単位の取得等)、仕事と家庭の両立支援、ゼロ・ハラスメントに向けた取組などについて報告されている。なお、夏季休暇取得期間の拡大、年休15分単位の取得については、国公労連の要求が反映されており私たちの運動の成果である。
(1) 給与制度のアップデートの「骨格案」は、①人材の確保への対応、②組織パフォーマンスの向上、③働き方やライフスタイルの多様化への対応の3つの課題に沿って報告されており、2024年にその時点で必要な措置の成案を示し、施策を講ずることとしている。このうち、在宅勤務等手当の新設については、国公労連が実費弁償の観点を含め多くの問題点を指摘していたにもかかわらず、何ら見直すこともなく今回先行的に勧告されたことは不満である。
 給与制度のアップデートの課題は、社会と公務の変化に応じた側面もあるが、2005年勧告の給与構造の改革や2014年勧告の給与制度の総合的見直しなどのドラスティックな制度改変によって生じた給与制度の歪みやひずみ、不合理な賃金格差を是正する側面もある。国公労連は給与制度のアップデートが、①あらゆる不合理な賃金格差を解消・是正する方向、②全世代の職員のモチベーションを向上させる方向、③能力・実績主義を解消・是正する方向で改善されるよう引き続き人事院を追及する。人事院として十分な制度検証を行い、「職員の納得性」を最重視して検討するよう求めるとともに、労働組合との合意を前提とした交渉・協議を求める。
(2) 柔軟な働き方、とりわけフレックスタイム制の柔軟化やテレワークの利用などは、労働力や労働時間の分散を伴うため、公務・公共サービスの低下を回避するためには、何よりも人的体制の拡充が不可欠である。
 勤務間インターバルの確保は、新たな施策として人事院規則に努力義務が定められることとなった。超過勤務の上限規制をさらに厳格化する必要があることなどを踏まえれば、長時間・過密労働、恒常的な超過勤務に依存してきた国の行政機関の組織体制を是正することを基軸として、業務改革や職場環境の整備などが先行して実施されなければならない。
 長時間労働の是正に当たっては、定員管理政策の抜本的転換が不可欠であることを踏まえ、総定員法の廃止、定員合理化計画の中止とともに、行政需要(業務量)に見合う大幅な増員を求める。
(3) 非常勤職員の課題について、「各府省の実態等を把握しつつ、非常勤職員制度の適切な運用の在り方等について検討を行っていく」と報告している点は前進面ではあるが、今回も具体的な改善措置には触れられておらず、極めて不満である。政府が「経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太方針)」に「同一労働・同一賃金制の施行の徹底と必要な制度見直しの検討等を通じて非正規雇用労働者の処遇改善を促」すと掲げていることを踏まえれば、国の職場においても安定雇用と均等・均衡待遇の実現にむけて抜本的な改善措置を講じるべきである。とりわけ、「3年公募要件」の撤廃、「無期転換ルール」の創設、任用当初からの年次休暇の付与、病気休暇の有給化などは喫緊の課題であり、改めて早急な改善を求める。
 今後のたたかいは、政府との交渉へと移る。全労連・国民春闘共闘委員会は、社会的な賃金闘争として公務員賃金改善を前面に押し出しており、最賃闘争と結んで官民一体での運動が全国に広がっている。一方で、大軍拡・大増税を狙う岸田政権は、巨額の防衛費の財源確保のために「歳出改革」をすすめるとしており、公務員の人件費が削減される危険性も強まっている。こうした情勢のもとでとりくまれる2023年秋季年末闘争は、早期の給与改善を求めるとりくみとともに、24春闘の準備、給与制度のアップデートを中心とした24人勧に向けたたたかいもスタートすることになる。
 人勧期のたたかいに奮闘された全国の仲間のみなさんに心から敬意を表するとともに、引き続く国公産別のたたかいへの結集を呼びかける。

2023年8月7日 国公労連中央闘争委員会

較 差

職員の労苦に応えず生活改善できない勧告

 人事院は月例給に関し、3869円、0.96%(昨年921円、0.23%)の官民較差があったとして4月に遡って給与改善を行うとしました。 これは、歴史的な物価高騰に見舞われるなか、労働者・国民の生活を守るために奮闘した全労連・国民春闘共闘委員会をはじめとする民間労働組合のたたかいが結果として今回の人事院勧告に現れたものです。ちなみに本年の春闘結果は図表1のとおりです。
 ただ、6月の消費者物価指数が前年同月比で3.3%上昇、5月の実質賃金は前年同月比1.2%減で14か月連続マイナスとなるなど、物価の上昇に終わりが見えないなかで生活悪化がすすむもと、生活改善には不十分な額であり、職員の労苦・期待に応えるものとはなっていません。ここに、民間準拠を基本とする人事院勧告の限界が見えています。
 較差の配分では、3869円のうち俸給表の改善に3431円、はね返り分(俸給表改定により連動して改善となる手当への影響額)に438円が充てられます。
 俸給表の改善では、「一般職試験(高卒者)に係る初任給を7.8%(12000円)、一般職試験(大卒程度)に係る初任給を5.9%(11000円)、総合職試験(大卒程度)に係る初任給を5.9%(11000円)、それぞれ引き上げることとする」とし、「これを踏まえ、若年層が在職する号俸に重点を置き、そこから改定率を逓減させる形で引上げ改定を行うこととする。この結果、1級、2級、3級及び4級の平均改定率はそれぞれ5.2%、2.8%、1.0%及び0.4%となり、5級以上の平均改定率はいずれも0.3%となる」としました。また、再任用職員についても「各級の改定額を踏まえ、所要の引上げ改定を行う」としました。
 これは、国公労連が初任給の抜本改善と、すべての世代で生活改善できる賃上げを求めてきた運動の反映ですが、中高年層の生活改善には極めて不十分な給与勧告となりました。
 民間初任給や最低賃金の引上げ動向を踏まえれば、原資を若年層に厚く配分することは一定理解できます。しかしながら先日、最低賃金の引上げの目安額(全国加重平均41円・4.3%)が答申されていることを鑑みれば地域別最低賃金を下回るような水準の地域は減少するものの、今回の初任給改善では不十分で、優秀な人材確保にむけても初任給のさらなる改善が必要です。また、給与抑制を強いられ、長期にわたって処遇改善が見送られてきた高年層職員をはじめとして、中高年層職員の生活と労働の実態を踏まえ、生計費原則と職務給原則を重視する勧告制度へ転換させていくことが求められています。

一時金

勤勉手当は圧縮すべき

 一時金については、期末・勤勉手当の年間支給月数(4.40月)が民間を0.09月下回っていたとして、0.10月引き上げて4.50月とするとしています。昨年につづいての一時金0.10月改善となりますが、職員の生活改善には十分とはいえません。
 引上げ分の配分について人事院は「概ね公務と民間で均衡している状況に達した」として「期末手当及び勤勉手当に均等に配分する」としています。しかし、国公労連は、人事評価制度とその結果を直接給与に反映することの職場への悪影響から勤勉手当は圧縮すべきという立場であり、少なくとも、引上げ分は期末手当に配分すべきと考えます。
 再任用職員についてこちらをご覧ください。

通勤手当

「ゼロ回答」来年に先送り

 今年も重点要求として追及を強化してきた特急料金の全額支給をはじめとする通勤手当及び寒冷地手当の改善・引上げは、来年に先送りされ「ゼロ回答」という極めて不満な結果となりました。
 現在、ガソリン価格が政府の補助率の縮小(9月末で終了)にともなって上昇をつづけています。一部の給油所では1リットル200円を超えている実態にあり、こうした状況が職員の生活悪化に拍車をかけています。通勤手当は実費弁償が原則であり、そこに自己負担があってはならないはずです。燃料価格の動向を踏まえないという指標の在り方も不合理です。民間準拠を基軸とした措置を転換するとともに、国家公務員のニーズに適応した通勤手当を確立すべきです。特急料金関係は4面をご覧ください。
 また、寒冷地手当は、気象庁が公表している「メッシュ平年値」(最新は2022年4月)を基礎として見直しが検討されています。しかし、現行の支給地域と級地区分は、寒冷積雪地域の生活実態に見合っておらず、当該地域に勤務する職員の生計費上昇分を賄えないことが指摘されています。寒冷地手当の本来の効果を維持するためには、平均気温と最深積雪という必ずしも相関関係にない気象データを指標とする現在の基準を見直し、燃料価格の高騰などに迅速に適応できる措置を早急に講じるべきです。

在宅勤務手当

経済的負担など問題多い措置

 在宅勤務等手当は、2024年4月1日に新設することが勧告されました。同種手当を支給する民間企業の割合は30.8%でしたが、とりわけ光熱・水道費等の経済的負担を軽減することが重視され、これまでの要求が実現します。
 しかしながら、一定期間以上継続して1か月当たり10日を超えてテレワークを利用することが支給の要件であり、民間企業の実態を踏まえ(図表5参照)、月額3000円という低水準にとどまりました。あらかじめ通勤手当を減額する措置も講じられます。
 コロナ禍を契機として普及しつつあるテレワークは、依然として解消すべき課題がありながらも、さまざまな利用の在り方が模索され、実効性を獲得しつつあります。在宅勤務等手当は、それを担保する措置ですが、この要件は、「柔軟な働き方」の機能を喪失させかねません。長期的かつ継続的にテレワークを利用しない職員は、依然として経済的負担が軽減されず、短期的な利用を躊躇するおそれがあるからです。また、自然災害などの緊急時におけるテレワークの活用に当たっては、職務命令により経済的負担が強制されます。
 これまで国公労連は、一時的なテレワークの利用であっても、1日目から日額を支給することなどを要求してきました。月額3000円では、1か月当たりの光熱・水道費すら賄えないばかりか、通勤手当の減額手続などに見合った支給水準ともいえません。さらに、猛暑が続く夏季においては、熱中症の予防や健康維持のために冷房の使用が欠かせませんが、電気料金の上昇を気にして自宅での冷房使用を躊躇すれば、テレワークにおける職員の健康被害につながりかねません。民間企業の支給水準は、テレワークの普及から相当の期間を経過していないため、適正な相場が形成されておらず、労働者の経済的負担の実態などを反映していないおそれもあります。
 職員の経済的負担が解消されるよう、自宅をテレワークの場所として整備・維持するための経費や通信費などの弁償とともに、職員のプライバシーや私的財産の侵害に見合った補償を追求していく必要があります。

柔軟な働き方

フレックスタイム制のさらなる柔軟化

 2023年3月の「テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会」の最終報告による提言を踏まえ、図表6の措置が講じられます。
 フレックスタイム制の柔軟化として、勤務時間の総量を維持した「ゼロ割振り日」の設定が勧告されました。「選択的週休3日制」に相当するものであり、長時間労働に陥りがちな労働者を保護する観点が疎かになることが危惧されます。
 フレックスタイム制は、単位期間の超過勤務を縮減する効果が期待できる一方で、1日又は数日単位の長時間労働を助長するおそれがあります。超過勤務手当には、正規の勤務時間を超過した労働に対する報酬としての性質とともに、時間外労働を命令した使用者にペナルティを課し、間接的に長時間労働を抑制する機能が併存しています。「ゼロ割振り日」の設定は、使用者が超過勤務手当の支給を免れることに悪用するおそれもあり、超過勤務手当の機能を喪失させかねません。
 また、フレックスタイム制の柔軟化は、繁忙期の1日又は数日単位の長時間労働を前提としつつ、閑散期に休息を確保することを想定しています。しかしながら、過剰な定員削減により脆弱化した職場の人的体制では、恒常的な超過勤務に依存した業務を余儀なくされているため、実質的には閑散期が到来しないおそれもあります。
 フレックスタイム制と別途措置される勤務間インターバルの確保は、それぞれの制度の主旨が違っており、両制度の運用に当たっては、使用者視点の「働かせ方」に基づく「業務の繁閑」のサイクルよりも、労働者本位の「働き方」を重視した職員の安定的なライフサイクルの維持を優先すべきです。
 さらに、これまで育児介護等職員に適用されてきた「選択的週休3日制」は、家庭的責任を担う人材を社会的に支援する要請を前提として許容されているものです。両立支援制度の普及と拡充は、公務の特性である集団的執務体制を弱体化させるリスクに優先すると認識されているに過ぎず、フレックスタイム制の柔軟化を一般の職員にまで適用することは、職場のコンセンサスを得られるものではありません。
 勤務間インターバルの確保は、各府省の新たな努力義務として、人事院規則に定められることとなります。勤務間インターバルの確保は、一般的な労働時間規制をもっては措置できない長時間労働の解消とともに、労働者の疲労回復などを目的とするものであることを踏まえれば、その実効性を確保するに当たって、本来は法的義務として定められるべきです。
 しかしながら、「業務体制の見直しや、現行制度(フレックスタイム制・早出遅出勤務等)の積極的な活用、業務合理化等による超過勤務の縮減等により実現」することとされています。人事院が各府省の実態や課題を把握するためのヒアリングや調査を実施するとともに、その結果を踏まえて課題を分析し、諸課題の解消に向けた措置を試行することともされています。各府省が講じるべき措置は、ガイドラインなどに明記するなど、実効性を確保するための措置も講じられるべきです。
 これまでの夏季休暇は、7月から9月の3か月の短期間にすべての職員が連続3日を使用するに当たって、職場の人的体制の維持を困難なものとしてきました。結果として、年次休暇や週休日を併せた連続9日程度の長期休暇が奨励されつつも、それを躊躇する職員が増加しています。夏季休暇の使用可能期間の延長は、これまで要求してきた経緯もありますが、夏季の心身の健康増進という本来の機能が発揮されるよう、職員が使用を躊躇しないような職場環境の整備も不可欠です。
 年次有給休暇は、終日にわたって労働から解放されることを目的とした1日単位の使用が維持されるべきです。一方で、国家公務員の年次休暇は、例外的に1時間単位で使用できますが、2009年から原則的な勤務時間が1日当たり7時間45分に短縮されました。交替制等勤務職員の多様な勤務時間の割振りに伴い、年次休暇の使用単位と勤務時間の割振りが不整合となり、結果として、勤務時間法が想定していない不利益な取扱いを余儀なくされてきました。交替制勤務で働く仲間が年次休暇の15分単位の使用を求めて要求したことが実現しました。
 テレワークの実施に関するガイドラインは、人事院と内閣人事局が連携して策定します。テレワークの実施に当たっての基本と例外的な取扱いをはじめ、テレワークの勤務管理、長時間労働対策、健康管理などが提示される予定です。
 現在の職場は、テレワークの普及・定着に固執するあまり、業務の特性や職員の事情を無視したテレワークの実施率をノルマ的に強要するような実態も指摘されています。このガイドラインの策定に当たっては、個々の業務との親和性や適合性などに留意しつつ、テレワークの意義・目的・効果などを総合的に勘案するとともに、さまざまなメリット・デメリットを検証し、諸条件の最適化を追求する観点も不可欠です。

再任用職員

わずかな改善にとどまり不合理な格差が放置

 再任用職員の処遇改善については、今年の人勧期交渉の重点課題として、月例給の引上げ、一時金の均等・均衡待遇、生活関連手当の支給などを要求してきました。人事院は、俸給表全体の改定に伴う再任用職員の月例給の引上げ(1000〜1400円)、一時金の0.05月分の引上げを勧告しましたが、その他の要求には応えず、常勤職員や期間業務職員の約半分とされている一時金月数の格差も維持しました。なお、月例給の引上げは5年ぶりです。
 今年度から定年引上げが開始されたことに伴い、再任用制度は、定年前再任用短時間勤務制と暫定再任用制度に移行されました。政府からの要請も踏まえ、人事院は「給与制度のアップデート」の検討課題に再任用職員の給与を挙げており、今年の人事管理報告ではその検討内容として「人事運用の変化を踏まえて手当の支給範囲を拡大し、多様な人事配置での活躍を支援する」と述べています。これは制度創設当初に想定されていなかった転居を伴う異動などが生じていることから、来年の勧告に向けて、住居手当などの生活関連手当の支給を検討するとの表明です。私たちの要求の前進につながる方向ではあるものの、現状では「円滑な配置等への対応」としてのみ触れられ、同一労働同一賃金や生計費原則の観点から処遇改善が打ち出されているわけではありません。今後の検討にあたっては、何より定年前職員との均等・均衡待遇の観点が重視されるべきです。
 再任用職員は、定年前に蓄積した知識・技能を駆使し、人的体制の脆弱な職場を支えていますが、現在も約6割が短時間勤務を余儀なくされ、賃金水準が不当に抑制されています。定年延長後は同年代の定年前職員との不合理な格差も問われます。公務・公共サービスの水準を維持するうえでも、処遇改善が喫緊の課題です。

非常勤職員

賃上げ4月遡及を勝ちとろう 雇用・休暇要求は無視

 今年は「職員の給与に関する報告」「公務員人事管理に関する報告」の双方で非常勤職員の課題に言及しています。
 給与報告では、4月から非常勤職員の給与を常勤職員に準じて改定するよう努める旨の指針改正を行ったことを受け、「この指針に沿った適切な給与支給が行われるよう、各府省を指導していくこととする」と述べています。今年の勧告では33年ぶりに初任給を1万円以上引き上げ、行(一)俸給表で1級初号俸が1万2000円、2級初号俸が9500円、3級初号俸が6500円引き上げられます。非常勤職員の給与は「類似する職務に従事する常勤職員の属する職務の級の初号俸の俸給月額」を基礎とすることから、各府省では、秋の給与法改正の際にこのベースアップを非常勤職員にも4月に遡及して適用し、一時金0.1月分の引上げと併せて確実に支給させるため、予算確保も含めて当局を追及する必要があります。
 一方、人事管理報告では、「公務組織を支える多様で有為な人材の確保のための一体的な取組」の一環として、「非常勤職員制度の運用の在り方の検討」が示されました。そこでは、人材獲得競争がし烈になる中、「本院は、各府省が引き続き行政サービスの提供を支える有為な人材を安定的に確保することができるような環境を整備することが重要と考えており、各府省の実態等を把握しつつ、非常勤職員制度の適切な運用の在り方等について検討を行っていく」と述べています。抽象的な記述であり、私たちの最大の要求である更新時公募の撤廃や無期雇用化等に直接応えたものとはいえませんが、今後の検討においては「運用」レベルにとどまらず制度自体の抜本改善を行うよう求めることが重要です。
 常勤職員と非常勤職員の休暇・手当制度の格差は今なお大きく、とりわけ新型コロナの「5類」移行で病気休暇の有給化や年休の採用当初付与などの要求がより切実になった実態に対して、人事院は「民間の状況等」を口実に応えませんでした。その意味でも、労働基本権制約の代償機関として人事院は責任を果たしておらず、引き続き職場から追及する必要があります。

給与制度のアップデート

能力・実績主義の強化に警戒 あらゆる給与格差の是正を

 2022年人事院勧告で表明された「社会と公務の変化に応じた給与制度の整備」(給与制度のアップデート)は、「令和6年に向けて措置を検討する事項の骨格案」のとおり、表現ぶりなどが変更されましたが、諸課題や検討すべき取組事項などを踏襲しつつ、「公務員人事管理に関する報告」であらためて提示されました。
 人材確保への対応としては、若年層の給与改善を期待できますが、中高年層の給与の在り方も検討すべきです。民間企業よりも長期勤続の傾向にある国家公務員の特性を踏まえれば、年功的な給与の上昇は否定できません。職務給原則に相応しい給与水準を維持し、中高年層のライフサイクルに見合った生計費を確保する必要があります。中高年層の給与水準は、若年層も注視する重要な観点であり、持続可能性のある給与体系の存在は、職業選択に当たっての不可欠な要素です。
 一方で、「若手・中堅の優秀者の…給与の満足度が低い実態」などが指摘されており、能力・実績主義の強化も懸念されます。人事評価制度の納得性などが担保されていない実態があります。その結果を直接的に反映する昇給や勤勉手当の格差は、職員のコンセンサスを得られていないばかりでなく、モチベーションを低下させるおそれがあるため、多様で有為な人材確保のための措置としては、実効性を期待できません。
 円滑な人事配置への対応としては、地域手当の設定を広域化するなどとされています。
 地域手当は、同一労働同一賃金の法理に違反するばかりでなく、職務給原則を形骸化させ、地域の低賃金構造を固定化するとともに、それが地域間格差をさらに拡大させてきました。全国均一・統一の行政サービスを提供する国の行政機関の機能を否定することにもつながっています。
 また、物流網や情報網が発達した近年では、消費者物価に地域ごとの格差は縮小しており、生活様式の均一化に伴う生計費のフラット化がすすんでいます。賃金の地域間格差の是正は、6月16日に閣議決定された「骨太の方針2023」などにも明記されており、国家公務員の地域手当の見直しは、その潮流を先導するものであるべきです。
 さらに、新幹線利用の通勤手当の改善や再任用職員の諸手当の支給など、これまでの要求の実現を期待できる取組事項もありますが、本来は2024年まで先送りできない喫緊の課題です。
 定年引上げとも関連する60歳前後の給与カーブの在り方も含めて、想定されている取組事項は多岐にわたっていますが、政府の新自由主義的な政策により変質した給与制度を是正するとともに、あくまで労働者本位の「アップデート」を追求していく必要があります。

公務員人事管理に関する報告

人材確保「危機的な状況」今年も定員問題に言及

 「公務員人事管理に関する報告」では勤務時間や給与を含む広範な課題と問題意識が表明されています。ここでは報告のうち「柔軟な働き方」と「給与制度のアップデート」以外の特徴的な記述を紹介します。
 報告は冒頭で「国家的課題とも言える公務人材の確保は、今、危機的な状況に直面している」と述べ、試験申込者数の減少や若年層の離職増、職員の年齢分布の偏りなどに早急に対応しなければ、「公務組織の持続可能性に対する懸念が増大するおそれがある」と危機意識を表明しています。とりわけ人材マネジメントに係る課題が山積していると指摘し、「課題解決の鍵は、異なるバックグラウンド、キャリア意識及び人生設計を持つ職員一人一人が高い意欲とやりがいを持って躍動でき、Well-beingが実現される環境を整備すること」としています。
 しかし、その対応の方向として、民間人材の誘致やマネジメント力の向上、兼業の在り方の検討、データ・デジタルの活用など、現場の実態や要求とは齟齬のあるメニューも並んでいます。
 また、「これまでの延長線上にある考え方では公務員人事管理の課題に対する解を見いだすことは困難」、「聖域を設けることなく骨太かつ課題横断的な議論を行うため、各界有識者による会議を設置し、令和6年秋を目途に最終提言を得る」として、「公務員人事管理について抜本的なアップグレードを実行」すると述べており、強権的なトップダウンの改革が労働条件改悪につながることのないよう注視が必要です。
 超過勤務の縮減については、公務職場の長時間労働などの「負のイメージ」を払拭するため、多方面からの取組を進めると述べています。根本原因である定員問題に関しては、まず業務の削減・合理化やマネジメント強化等を進め、各府省における柔軟な人員配置や必要な人員の確保に努めるとしたうえで、人事院の各府省アンケート結果で恒常的な人員不足が生じていた部署があった理由として多くの府省が定員不足を挙げていたと述べ、「今後も、各府省における状況を踏まえ、必要に応じ定員管理を担当する部局に御協力をお願いしていきたい」と表明しました。

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