国公労新聞|2025年8月10日号|第1649号(人勧特集号)

【月例給3.62% 改定も生活改善に不十分】
機関間・地域間・職員間の格差拡大は容認できない

声 明

 人事院は本日、政府と国会に対して、国家公務員の給与に関する勧告・報告及び公務員人事管理に関する報告を行った。
 官民較差にもとづいて、月例給は3.62%(1万5014円)、一時金は0.05月分の改善を勧告した。この勧告の背景には、25春闘で全労連・国民春闘共闘に結集する労働者・労働組合が、昨年以上にストライキ権を確立・行使するなど、いかんなく交渉力を発揮し、単純平均で3%超の賃上げを勝ち取った運動の成果がある。このたたかいに結集された全国の仲間のみなさんの奮闘に心より敬意を表する。
 今回の勧告において月例給は、1991年以来34年ぶりに3%を超える改定率となった。また、初任給を高卒で1万2300円、大卒で1万2000円引き上げるとともに、若年層の給与改善に重点を置きつつも、すべての職員を対象に俸給表全体を引き上げ、中高齢層職員においても昨年を大幅に上回る改定額となった。このことは、組合員やその家族の生活改善にむけて全世代の賃上げを要求してきた私たちの運動の成果である。しかし、物価が46か月にわたって連続して上昇しているなか、生活改善という点では不十分であり、再任用職員をはじめ、中高齢層職員の賃金改善については改定率が逓減されたことによって、物価上昇分にも満たない水準にとどまった。このように生計費原則を顧みない勧告となったことは極めて不満である。


 こうした結果となった背景には官民較差算出にあたっての比較企業規模の問題がある。この間の私たちの粘り強い要求によって今回、人事院は2006年に不当に引き下げた比較企業規模を100人以上に戻した。しかし、本府省・地方支分部局を格差なく1000人以上に引き上げるという私たちの要求には応えなかった。その一方で、本府省職員においては1991年以降、東京23区に所在する企業規模500人以上の本店事業所の従業員と対応させてきたものを1000人以上に引き上げた。このことは機関間格差を拡大するものであり、職員の不公平感を助長し、組織のパフォーマンスを低下させかねない。国の行政機関は、本府省や地方支分部局による全国ネットワークを構築し、各地域でくまなく公務・公共サービスを提供している。その組織体系などを維持するに当たっては、広域の人事異動も余儀なくされている。本府省と地方支分部局が連携して行政を担っており、いずれも全国的に事業を展開している大企業に相当する組織である。また、人材確保の困難性は本府省のみならず、地方支分部局も同様である。そうした実態を踏まえれば、比較企業規模を1000人以上として官民較差の解消を図り、「外部労働市場と比較して見劣りしない報酬水準」を早急に実現すべきである。
 本府省業務調整手当については、幹部・管理職員を新たに手当の支給対象に加えたが、俸給の特別調整額との「二重払い」ともなりかねない重大な問題を孕んでいる。さらには、本府省課長補佐級以下の職員の手当額引き上げも盛り込まれた。こうした措置は、機関間・地域間・職員間の格差をいっそう拡大するものであり、容認できない。そもそも「本府省の業務の特殊性・困難性」などは、適正な職務評価に基づく級別定数の設定などに反映すべきである。業務の特殊性・困難性は、本府省のみならず地方支分部局でも当然に高まっている。こうした実態を正当に評価し、それに見合うよう、現行の級別標準職務表を抜本的に改善することが先決事項である。
 マイカーにかかる通勤手当、特地勤務手当等については、いずれも改善の措置が図られた。とりわけ、マイカーにかかる通勤手当は各ブロック・県国公を中心とした強い要求であり、私たちの運動が実を結んだものである。通勤手当については、現在持ち出しとなっている費用がどこまで解消されるか判明しておらず、あくまでも実費弁償となるよう運動を強めていく必要がある。特地勤務手当等については、いわゆる生活不便地にも国の行政機関を設置していることの意義を重視し、地方支分部局での人材確保が困難となっている実態も踏まえて官署等の指定の拡充が必要である。
 一時金について、国公労連はすべての職員の生活改善につながる期末手当への配分を要求しているが、人事院は期末手当に0.025月、勤勉手当に0.025月均等に配分しており、人事院の能力・実績主義強化の姿勢は依然変わっていない。
 再任用職員については、一時金が常勤職員と同じ0.05月の改善となったものの、そもそも支給月数が常勤職員の約半分に抑えられている実態は解消していない。非常勤職員については、常勤職員に連動して賃上げとなることが想定されるが、その他はゼロ回答であり不満である。これら常勤職員との不合理な格差は即刻解消すべきである。


 今年の勧告、職員の給与に関する報告、公務員人事管理に関する報告において、人事行政諮問会議の最終提言を具体化する施策・方向性が打ち出されている。人材獲得競争が激化するなか、「選ばれる公務職場」を実現するため「公務のブランディング」をすすめるとしているが、近年の「若者の公務員離れ」は、①「外部労働市場に見劣りしない報酬水準」を期待できない、②将来的にも上昇が見込める賃金体系が崩壊しつつあり、職業と組織への長期的な帰属意識やワークエンゲージメントを醸成できない、③過剰な定員合理化により職場の人的体制が脆弱化し、職員の長時間過密労働が恒常化している、④不条理な「公務員バッシング」や厳格な服務規定の運用などに起因する精神的な負担が蔓延している、⑤国家公務員という職業の理想と現実のギャップが若年層から「働きがいと成長実感」や自己実現の機会を奪っていることなど、複合的な要素が指摘されている。
 こうした若者の職業意識などを踏まえれば、「職員の価値観」などの多様化や「職員の育成の重要性」を重視すべきであり、至上命題である人材確保を実現するためには、「実力本位の人事管理」よりも「働きがいと成長実感」が重要な観点となっており、その具現化が求められている。能力・実績主義のさらなる強化も強調されているが、これは公務の変質につながる危険を高めるものであり、さらに一部の職員のみにその利益が集中されれば、組織全体で働きがいと成長実感を持てる公務組織は実現できない。
 「『これから』の公務」に必要なことは、国家公務員の特性である中立性・公正性・専門性などを維持すること、及び能力・実績主義の強化が人材確保につながってこなかった実態などを踏まえて真に必要な人事マネジメントシステムを構築し、国民本位の行財政・司法を確立することである。


 公務員人事管理に関する報告において、超過勤務の縮減に向けたとりくみが掲げられているが、根本的な要因である職場の人的体制不足を解消することなしには解決しない。人材確保と併行してとりくむ必要がある。カスタマー・ハラスメントについて必要となるとりくみを人事院規則に明記するとしている。これも職場の実態を踏まえた運動・追及が実ったものであり、国としてハラスメントを許さない基本姿勢を示させるとともに、実効性のある具体的措置を講じさせるために引き続き追及を強化していく。


 今後のたたかいは、政府との交渉へと移る。国公労連は、各単組・ブロック・県国公と連携し、職場・地域からの運動で要求を前進させてきたことを確信に、公務員賃金の早期確定、26年度予算査定、公務・公共体制の拡充など諸要求実現をはじめ、26春闘を視野に要求とたたかう体制の確立、対話を重視した組織強化・拡大をめざす決意である。
 人事院勧告期のたたかいに奮闘された全国の仲間のみなさんに心から敬意を表するとともに、引き続く国公産別のたたかいへの結集を呼びかける。

2025年8月7日 国公労連中央闘争委員会

較 差

中高齢層の賃金改定も物価上昇に追いつかず

 人事院は月例給に関し、1万5014円、3.62%(昨年1万1183円、2.76%)の官民較差があったとして4月に遡って給与改定を行うとしました。
 これは、物価の高騰・高止まりがつづくなかで、労働者・国民の生活を守るために奮闘した全労連・国民春闘共闘委員会をはじめとする労働者・労働組合のたたかいの結果です。なお、本年の春闘結果は図表1のとおりです。
 改定額、改定率ともに、近年にない高い水準となりましたが、物価の上昇に賃金の伸びが追いつかず、生活がますます苦しくなるなか、私たちの要求に照らしても極めて不満な勧告です。「骨太の方針2025」で「物価上昇を上回る賃上げの普及」などが謳われているにもかかわらず、約900万人の労働者に影響する国家公務員の賃金改定としては、あまりに低水準といわざるを得ません。改めて人事院勧告制度の矛盾と限界が浮き彫りとなっています。官民較差の配分は、俸給表の改善に1万975円、本府省業務調整手当の改定に2568円、特地勤務手当等の改定に72円、はね返り分(俸給表改定により連動して改善となる手当への影響額)に1399円が充てられます。
 俸給表の改善では、初任給を一般職試験・高卒者は6.5%(1万2300円)、一般職試験・大卒程度は5.5%(1万2000円)引き上げられます。また、「おおむね30歳台後半までの職員が在籍する号俸に重点を置いた改定を行うとともに、その他の職員が在職する号俸については、改定額を逓減させつつ引上げ改定を行う。この結果、平均改定率は、1級5.2%、2級4.2%、3級3.4%、4級2.9%、5級から10級まで2.8%となる」としています。また、再任用職員についても「各級の改定額を踏まえ、所要の引上げ改定を行う」としました。
 これは、国公労連がすべての世代で生活改善できる賃上げを求めてきたことの反映ですが、再任用職員をはじめ中高齢層の生活改善には不十分な結果となりました。
 長期にわたって給与抑制を強いられ、処遇改善が見送られてきた中高齢層職員の生活と労働の実態も重視する勧告へ転換させていくことが求められています。そのことが、若年層職員の離職に歯止めをかけることにもつながります。

一時金

最低月数の引上げわずか0.05月

 人事院は本年の職種別民間給与実態調査の結果、2024年8月から2025年7月までの1年間において、民間事業所で支払われた特別給が年間で所定内給与月額の4.65月分に相当しており、国家公務員の期末・勤勉手当の年間支給月数(4.60月)が民間を0.05月下回っていたとして、0.05月引き上げて4.65月とするとしました。また、引上げ分の配分については、期末・勤勉手当に均等に配分するとしています。この支給月数の引上げは、再任用職員等にも措置されます。
 なお、月例給の比較対象企業規模を100人とすることとの整合性を考慮し、一時金の官民比較も、企業規模100人以上の民間企業を比較対象としています。
 国家公務員の期末・勤勉手当の改定は0.05月単位で行われており、今年の一時金の改定は最低月数です。この間の物価高騰などを踏まえれば、全く不十分な改定です。また、国公労連は一時金の配分について、人事評価制度の結果を直接給与に反映する勤勉手当は圧縮すべきという立場です。くわえて、物価が高騰するなか、すべての職員の生活改善が急務である現状からすれば、引上げ分は、すべて期末手当に配分するべきです。

通勤手当

マイカー通勤手当改善
駐車場料金の支給実現

 通勤手当の見直しは、自動車等使用者について、①距離区分を100キロメートル以上まで増設し、②支給額の上限を6万6400円に増額すること、③現在の距離区分にも200円から7100円で増額すること、④駐車場等の利用に1か月当たり5000円を上限に支給することとされました。③は本年4月に遡及して、①②④は26年4月から適用されます。
 本年度に公共交通機関を中心とした改善が実現した一方で、マイカー通勤の職員の不公平感や経済的負担を解消することが喫緊の課題でした。各ブロック・県国公でも課題の重要性が強調され、独自のとりくみに基づき、人事院地方事務局交渉などで要求を強化してきました。そうした運動が2年連続の成果をもたらしたこととなります。
 近年のガソリン価格の相場や自家用車の燃費などを踏まえれば、概ね燃料費を賄える支給額となります。しかしながら、駐車場料金は実費弁償に不足し、一定割合を補助できる程度でしかありません。人事院は5000円の指標として、民間の支給額の「中央値」としていますが、全国にくまなく官署を設置している国の行政機関の特性などを踏まえれば、必ずしもそれに準拠する必要はありません。
 通勤手当で駐車場料金の支給を実現できたことは、これまでの運動の成果としつつ、今後のさらなる改善も追求していく必要があります。
 また、通勤手当の全般では、月の途中で採用される実態や人材確保の観点などを踏まえ、月の初日に支給要件が満たされていなくとも、当月の通勤から支給できることとなります。26年10月から実施される予定です。

宿日直手当・住居手当・地域手当

住居手当改善されず

 宿日直手当について、勤務1回に係る支給額の限度を、通常の宿日直勤務は4700円(現行4300円)、人事院規則で定める特殊な業務を主とするものは7700円(現行7400円)に引き上げることとされました。
 住居手当は、現状を把握するための調査が実施されましたが、勧告は見送られました。国公労連は、近年の家賃相場の高騰等を踏まえれば、現在の最高支給限度額は実態に見合っていないことなどを理由に、積極的な検討を求めてきました。人材確保の観点からも、支給額の改善を引き続き求めていくことが必要です。
 「給与制度のアップデート」による地域手当の支給割合の見直しは、26年度が2年目の改定となります。引下げは1ポイントずつを4年間で段階的に実施、引上げは、引下げによって得られる原資の状況などを踏まえ、段階的に実施されます。継続して支給割合の引下げの中止を求めるとともに、現行の地域間格差を早急に解消することを政府・人事院に求めていく必要があります(支給割合の詳細は、下記のQRコードからアクセスしてください)。

初任給

最賃近傍の低水準を改善せよ

 人事院は、「一般職の国家公務員に最低賃金法は適用されないが、人材獲得競争が激しくなる中、最低賃金の上昇が続いていることを踏まえ、採用市場での競争力を確保していくため」として、新たに採用された職員や再任用職員に対し、月例給与の水準が地域別最低賃金に相当する額を下回る場合に、その差額を補填するための手当を新設するとし、2026年4月から実施されます。この措置は、当該職員に適用される俸給月額のうち、級号俸に応じた額と、これに地域手当の支給割合を乗じて得た額の合計額を時給換算した額が、在勤する地の地域別最低賃金を下回るときには、人事院規則で定めた額を支給するというものです。
 この措置が想定しているのは、国家公務員の賃金が、当年度に改定される地域別最低賃金を下回る事態です。しかし、国家公務員の賃金が最賃近傍のような低水準におかれていること自体、極めて不健全かつ理不尽といわざるを得ません。情勢の変化に迅速に適応できない人事院勧告制度の矛盾と限界が顕在化しています。本措置は対処療法に過ぎず、あくまで臨時・特例的なものとすべきであり、このような実態は、本来であれば、俸給水準の底上げによって是正されるべきです。

人事行政諮問会議

比較企業規模、改善するも機関間格差広がる【最終提言】

官民給与の比較方法の見直し

 官民較差の比較企業規模について、①50人以上から100人以上とするとともに、本府省の対応関係は、②東京都特別区に所在する500人以上の本店事業所から1000人以上とされました。
 主な理由は、①行政課題が高度に複雑化・多様化、②国家公務員の業務の重要性・困難性、③厳しい人材獲得競争などの実態を踏まえ、「より規模の大きな企業と比較する必要がある」としています。100人以上の指標としては、民間企業の「過半をカバーできること」も列挙されています。本府省の対応関係では、「政策の企画立案、関係府省等との高度な調整、国際機関や諸外国との折衝、国会対応など、本府省の業務の特殊性・困難性…に照らして適切な比較対象とすべき民間企業はより大規模なもの」としています。
 国家公務員の賃金改定率が民間の春闘相場を大幅に下回っている要因は、官民較差に基づく原資が絶対的に不足しているからです。その背景に比較企業規模の在り方があることは明白であり、国公労連は、地方支分部局も含めて50人以上から1000人以上に改善することを要求してきました。
 国の行政機関は、本府省や地方支分部局による全国ネットワークを構築し、各地域でくまなく公務・公共サービスを提供しており、その組織体系などを維持するに当たっては、広域の人事異動も余儀なくされています。いずれも全国的に事業を展開している大企業に相当する組織であり、勤務条件の機関間格差は、国の行政機関の組織体系や各機関の職務・職責の実態を反映したものではありません。
 また、地方支分部局での人材確保も困難となっています。全国均一・統一の行政サービスを提供するためには、生産年齢人口が減少する地域などであっても、人材の流出を招くことなく、安定的に新規採用などを確保できる賃金体系を実現する必要があります。
 官民較差の比較企業規模の在り方は、職員の重要な勤務条件である賃金水準を決定する根本的な指標です。単年度で決着できるものではなく、人材確保も中長期的な課題となることを踏まえれば、人事院への継続した要求が不可欠です。

本府省業務調整手当の拡充

 官民較差の比較企業規模の見直し(本府省の対応関係)で得られた原資の一部は、俸給表の改定と本府省業務調整手当の拡充に使用されます。
 本府省業務調整手当の拡充は、①支給対象に幹部・管理職員を追加、②課長補佐級以下の支給額の引上げとして、本年4月に遡及して適用されます。
 「本府省の業務の特殊性・困難性の高まり」などを偏重し、本府省業務調整手当を拡充することは、過剰な機関間格差の拡大と職員の不公平感を助長し、組織のパフォーマンスを低下させかねません。
 とりわけ、①の措置は、俸給の特別調整額(管理職手当)との「二重払い」ともなりかねません。本府省を射程に東京都特別区に支給される地域手当も含めて、その趣旨が一部で重複するかのような賃金が支給され、「給与制度のアップデート」では、本府省課室長級の俸給体系の見直しにより、昇格・昇給メリットが大幅に拡大しており、職務・職責の評価の在り方がとめどなく膨張・肥大化しています。
 そもそも「業務の特殊性・困難性」などは、その客観的な指標である級別標準職務表の抜本的な改善などで評価すべきであり、諸手当による複層的な措置を講じるべきではありません。
 また、「業務の特殊性・困難性の高まり」は、地方支分部局でも顕著となっています。国民に直接的に行政サービスを提供する地方支分部局では、新規施策の肥大化などとも相まって、その業務や役割が変質してきており、行政ニーズや各官職の職務・職責が確実に高度化しています。職場実態を無視した定員合理化が地方支分部局に配分されていることは、各官職が担うべき業務の大幅な拡大にもつながっており、むしろ機関間格差の縮小に向かうべきです。
 さらに、①の措置(幹部・管理職員の追加)には、本年3月の「人事行政諮問会議 最終提言」で「課長補佐級から室長級に昇任・昇格した際に年収ベースで給与が下がるケースが少なくないこと(初任管理職の給与水準の問題)」が指摘されたことも背景にあります。超過勤務手当が支給されない幹部・管理職員の特性を踏まえたものです。
 しかしながら、超過勤務手当には、正規の勤務時間を超過した労働に対する賃金としての効果とともに、時間外労働を命令した使用者にペナルティを課し、間接的に長時間労働を抑制する機能が併存しています。「年収ベースで給与が下がるケース」ばかりに着目し、賃金の問題に矮小化すべきではなく、「初任管理職の給与水準」を上回るような超過勤務手当の支給状況、すなわち長時間労働の実態を解消するための措置を先行して講じるべきです。本府省業務調整手当の拡充にとどまるならば、地方支分部局の初任管理職への措置が欠落することにもなります。
 したがって、長時間過密労働の解消を優先しつつ、いわゆる「名ばかり管理職」の実態を是正することも含めて検討すべきです。

在級期間表の廃止

 在級期間表の廃止が26年4月に実施されます。
 昇任・昇格に当たっては、職務経験や知識・技能の習得・蓄積を背景とした能力・実績主義に基づく人事管理が原則とされており、昇格の要件としての在級期間には、一定の意義が存在します。
 他方、とりわけ地方支分部局では、職員の能力や「世代間の公平性」などに見合った官職や級別定数が絶対的に不足しているため、在級期間を超えても昇格できない実態があります。在級期間表の廃止は、恣意的な昇格を助長しかねないばかりでなく、昇格ペースが早い本府省での相乗効果を狙ったものであり、ここにも過剰な機関間格差が顕在化しています。

特地勤務手当等の見直し

 「転勤する職員に対する給与上の措置」として、①特地勤務手当と地域手当との減額調整の廃止、②特地勤務手当に準ずる手当(特地官署等への異動等に伴って転居した職員に支給)と広域異動手当との減額調整の廃止、③特地勤務手当に準ずる手当を新規採用に伴い転居した職員に支給、④特地勤務手当等の算定基礎を「現に受ける俸給等」に改定など、本年4月に遡及して実現します。新規採用者の特地官署等への配置に当たっては、人材育成などの観点を踏まえ、各府省の人事管理に留意する必要があります。
 また、26年4月に特地官署等の指定の見直しが予定されていますが、いわゆる生活不便地にも国の行政機関を設置していることの意義を重視するとともに、地方支分部局での人材確保が困難となっている実態を踏まえ、さらに拡大させる必要があります。

再任用・非常勤

均等待遇求める声に応えず

 再任用職員については俸給月額と一時金の改定が勧告されましたが、依然として一時金の月数が常勤職員の約半分であるなど差別的な水準にとどまっています。職務・職責に見合った均等・均衡待遇が急務です。非常勤職員の労働条件については、各種手当・休暇の改善や雇用安定のための新たな措置の検討を強く求めてきましたが、勧告・報告ではまったく触れられませんでした。再任用・非常勤ともに、人事院勧告が労働基本権制約の代償措置たりえていないことは明白です。
 一方で、今年の勧告では、行(一)俸給表で1級初号俸が1万2300円、2級初号俸が1万2000円、3級初号俸が1万1000円引き上げられます。非常勤職員の給与は「類似する職務に従事する常勤職員の属する職務の級の初号俸の俸給月額」が基礎とされており、給与法改正の際にベースアップの遡及分と一時金0.05月分の引上げを確実に支給するよう、予算確保を含めて当局を追及していく必要があります。

カスハラ対策

実効性ある措置を

 人事院は「改正労働施策総合推進法」の施行に合わせ、カスハラに必要となるとりくみを人事院規則に明記し、組織として毅然とした対応を取りやすくするなど、各府省におけるカスハラ対策を支援するとしました。
 カスハラの特性は、加害行為が組織の外部からもたらされるため、パワハラなどの概念では対応できないことにあります。国公労連は、防止するための措置を人事院に求めつつ、仮に発生した場合には、①組織的な対応を基本としたマニュアルの整備、②実効性のある相談窓口の整備、③職員研修の充実・強化、④行政窓口の施設・執務環境の整備、⑤職員のメンタルヘルス対策の充実・強化が必要であると主張してきました。今後も、カスハラの特性やその実態を踏まえた実効性のある措置を講じさせていくことが必要です。

公務員人事管理に関する報告

「選ばれる」公務への改革 人事院の責任自覚せよ

 「公務員人事管理に関する報告」は、昨年に続き、人材確保の課題を前面に出し、「激しい人材獲得競争が続くことが見込まれる」、「改革を次のフェーズに進めなければならない」などと問題意識を表明しています。
 その上で、人事行政諮問会議の最終提言を「改革の指針として真摯に受け止める」と述べ、具体的施策については「人事院が実現する『これから』の公務」として、次の4つのポイントに分けて説明しています。

1 高い使命感とやりがいを持って働ける公務

 今後、公務において多様な人材の活躍が見込まれるなか、「言語化された価値観を意思決定の土台とすることが、職員の高い使命感と創造性を持った行動ややりがいを生み、さらには、組織のパフォーマンス向上にもつながる」と述べています。その認識の下、人事院は25年5月に「国家公務員行動規範」を策定し、今後は職員への浸透を図りたいとしています。
 また、公務外への発信として、マーケティングの手法も取り込みながら、「公務のブランディング」をすすめていくとしています。公務の魅力の広報は重要であるものの、「イメージと実態のギャップを埋めるべく正しい情報発信を通じたイメージ形成が必要」などと述べている点は疑問が残ります。給与水準の低さや残業時間の多さなどを懸念する声は、十分改善されていない実態を捉えたものであり、「イメージ」だけの問題ではありません。

2 実力本位で活躍できる公務

 優秀な人材の確保に向けて「新たな人事制度」を検討するとしています。その方向性は、「業績等にかかわらず一律に給与が上昇していくような年功的なものではなく、採用後の役割や活躍に応じて給与が上昇」、「毎年の適正な人事評価に基づき高い能力・実績のある人材が登用され、より職務・職責に見合った給与が支給される体系」などが示され、人事評価制度自体の改善策が示されないまま、能力・実績主義のさらなる強化が謳われています。
 また、人事給与業務の効率化の観点から、諸手当を「簡素で分かりやすいものとなるよう抜本的な見直しを検討していく」と表明しています。
 幹部・管理職員層など政策の企画立案や高度な調整等に関わる職員の給与制度については、簡素な号俸構成とすることや「時々の職務・職責の変化に応じた給与水準の調整」も可能とすること、さらに「労働時間の長さではなくアウトプットで仕事を評価し、時間に縛られない裁量的な勤務を可能とする制度」などを検討し、26年夏に措置の骨格を、27年夏に具体的な内容を報告すると述べています。
 民間企業の裁量労働制適用者は非適用者よりも労働時間が長くなることが各種調査から明らかであり、公務の業務遂行における「裁量」や労使協定の手続きの問題も含め、非常に危険な方向性だといわざるを得ません。また、「調整」という名目で労働者に賃下げを強いることが危惧されます。激しい人材獲得競争という情勢に逆行し、労働基本権制約の代償機関としての役割を放棄するかのような内容です。

3 働きやすさと成長が両立する公務

 「職員のWell-beingや『選ばれる』公務職場を実現するためにも、超過勤務の縮減が最重要課題である」と述べています。その主な中身は、「月100時間等の上限を超える超過勤務の最小化」に「不退転の決意で」とりくむというものであり、具体的には、各府省で組織目標を設定し、人事院は個々の職場の実情に応じた伴走支援や調査・指導を強化するとしています。人員体制については、「各府省の実情を把握できるデータや各府省からの改善要望等を関係部局に示し、各府省の柔軟な要員確保が進むよう支援していく」と述べるにとどまりました。
 23年度の調査でも、本府省を中心に過労死ラインを超えた働き方をしている職員が約1.2万人(本府省の他律部署では28%)います。このような異常な長時間労働は即刻、強制力をもってなくすべきですが、そもそも「職員のWell-being」以前の「being」(生存)に関わる問題です。超過勤務時間の上限を導入した際、私たち労働組合が再三問題を指摘したにもかかわらず、過労死ラインの超過勤務を容易に命じることが可能な枠組みとしたことの当然の帰結であり、まず人事院は真摯に反省を述べるべきです。
 そのほか、「時代に即した働き方の推進等」として、兼業制度(自営兼業)の見直し、転勤を伴う異動への配慮、育児や介護などに限らない様々な事情に応じた無給の休暇による勤務時間の短縮などを検討するとしています。

4 誰もが挑戦できる開かれた公務

 ここでは採用手法・プロセスの見直しについて述べています。具体的には、経験者採用試験におけるオンライン試験の導入、インターンシップを活用した早期選考の環境整備、官庁訪問プロセスの改善、公務離職者の再採用の手続簡素化、技術系人材に特化した採用ルートの整備、地元志向に対応した採用の仕組みなどについて、順次検討・実施するとしています。

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 報告は最後に、公務を目指す優秀な人材に「選ばれる」職場となるため、「改革の工程表を作成・公開し、透明性を持って改革を進める」としています。しかし、本報告で示された内容の一部は、国家公務労働者の権利を侵害し、人材確保にとってもマイナス要因となり得ることから、スケジュールありきで強行することは許されません。国公労連との十分な交渉・協議と合意を前提として、真に職場の求める改革を行うよう追及を強める必要があります。

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