職員の労働条件の不利益変更を伴う給与勧告は許されない――2024年人事院勧告にあたっての声明

職員の労働条件の不利益変更を伴う給与勧告は許されない
――2024年人事院勧告にあたっての声明――
                   2024年8月8日 国公労連中央闘争委員会

 人事院は本日、政府と国会に対して、国家公務員の給与に関する勧告・報告及び公務員人事管理に関する報告、国家公務員の育児休業法の改正の意見の申出を行った。
 官民較差にもとづいて、月例給は2.76%(1万1183円)、一時金は0.10月分の改善を勧告した。この勧告の背景には、24春闘で全労連に結集する民間労働者が、ストライキ権の確立・行使を含む交渉力を発揮し、単純・加重平均で3%台の賃上げを勝ち取った運動の成果がある。民間の仲間の奮闘に心より敬意を表する。
 しかしながら、月例給については、32年ぶりに2%を超える改定率となったものの、物価は34か月連続して上昇しており、これでは組合員の生活水準は維持できない。大手企業では33年ぶりに定昇込みで5%超えの賃金改定と報道されているが、現行の比較対象企業・事業所規模50人以上では公務員の職務の特殊性に相応しい賃金水準を確保しているとは言いがたく、日本の低賃金構造を固定化している人事院勧告制度の問題点を改めて指摘せざるを得ない。
 若年層職員の生活改善はもとより公務における人材確保を図るため初任給(高卒2万1400円、大卒2万3800円)をはじめ若年層の給与改善に特に重点を置きつつも、すべての職員を対象に全俸給表の引上げ改定となったことは私たちの運動の成果である。しかしながら、中高齢層については改定率が逓減され、物価上昇分にも満たない勧告となったことは極めて不満である。
 一時金について、国公労連はすべての職員の生活改善につながる期末手当への配分を要求しているが、人事院は期末手当に0.05月、勤勉手当に0.05月均等に配分しており、人事院の能力・実績主義強化の姿勢は依然変わっていない。
 寒冷地手当については、支給額の増額改定と官署指定の居住地要件の廃止とともに、「メッシュ平年値2020」にもとづく支給地域の改定が行われた。今回の勧告で非支給等となる地域の職員は不利益変更を被ることとなり、寒冷積雪地域の生活実態を踏まえない見直しは到底容認できない。

 今年の勧告では、社会と公務の変化に応じた給与制度の整備(以下、「給与制度のアップデート」という。)の成案が盛り込まれた。国公労連は、①あらゆる不合理な賃金格差を解消・是正する方向、②全世代の職員のモチベーションを向上させる方向、③能力・実績主義強化を解消・是正する方向での検討を求めてきたが、今回の給与制度のアップデートについてはこの3つの尺度からそれぞれの措置事項を分析・評価する必要がある。措置事項のなかには国公労連の統一要求を反映した制度改善が図られたものも少なくない。例えば、①初任給・若年層の給与水準引上げの前倒しを含めて高卒初任給が地域別最低賃金を下回る地域の解消に向かっていること、②通勤手当の支給限度額の月15万円への引上げとこの範囲内での特急料金の全額支給、③再任用職員の手当拡大(地域手当の異動保障、住居手当、特地勤務手当、寒冷地手当等)など、組合員の切実な要求が前進したことは私たちの運動の成果である。その一方で、不合理な配偶者の扶養手当の廃止は到底容認できるものではなく、早急に経済的負担の解消が求められているマイカー通勤の燃料費や駐車場料金の改定が見送られたことは不満である。また、①係長級から本府省課長補佐級の俸給の最低水準の引上げ、②成績優秀者の勤勉手当の成績率の上限引上げなど能力・実績主義が強化されている点は看過できない。
 今年の最賃改定では不十分ながらも地域間格差が縮小に向かう傾向があるなかで、地域手当は都道府県単位で大くくり化(中核的な市は個別指定)され、級地区分が5段階に再編成された。しかしながら、最大20%の水準差をはじめ都道府県内外の地域間格差が存続・固定化されているばかりでなく、支給割合が切下げとなる地域の職員は不利益変更を被ることとなり、一方的に「賃下げ」を強行することは断じて容認できない。

 国公労連は、給与制度のアップデート等によって不利益変更を被る職員を生じさせないよう一貫して要求してきた。また、24夏季闘争のスケジュールを前倒しし、職場から要求決議を数次にわたり人事院に集中するなど、人事院が国公労連との交渉・協議に真摯に応じるよう強く求めてきた。しかしながら、地域手当や寒冷地手当など不利益変更を伴う措置事項の情報開示は限定的かつ抽象的で、労働組合と実質的かつ具体的な交渉・協議が行われたとは到底受け止められない。
 人事院は、労働基本権の代償機関であると同時に、職員の利益擁護機関である。こうした人事院の権限には、職員の不利益変更を伴う勧告を労働組合との合意や納得もなしに無条件に行うことまで「白紙委任」されていない。勧告権限は人事院にあるが、勧告を出すまでの間にあっても、職員の納得を得るための説明責任を最大限果たす義務がある。また、人事院のこれまでにない情報の管理・統制によって、公務産別・ナショナルセンターを含めた公務員賃金闘争の大衆的な戦術も制約を受けた。公務員賃金の社会的影響力の大きさからすれば、今回の人事院の不誠実な姿勢は対外的にも許されるものではない。国公労連は、改めて「自律的労使関係制度」の創設をはじめとした公務員の労働基本権の全面回復を強く求める。

 非常勤職員(期間業務職員)について、人事院は勧告に先立つ6月28日に「3年公募要件」を撤廃した。これは当事者をはじめ私たちのたたかいの成果である。今後は適正に運用されるよう当局監視を強めるとともに、採用年度当初からの年休付与や病気休暇の有給化など今年勧告されなかった非常勤職員の待遇改善要求の実現をめざす。
 公務員の人事管理に関する報告では、人事行政諮問会議の中間報告を踏まえたとりくみとして、在級期間に係る制度・運用の見直しの検討、官民給与の比較を行う際の企業規模の検討などについて言及している。これらのとりくみにあたっては、キャリア優遇や能力・実績主義を強化することを許さず、人事院が公平・中立な第三者機関としての立場で公務員の人事行政を確立するよう求める。

 今後のたたかいは、政府との交渉へと移る。大軍拡・大増税をすすめる岸田政権は、巨額の防衛費の財源確保のために「歳出改革」をすすめており、デジタル化に伴う人件費を含む行政経費の縮減などがねらわれ、そのしわ寄せは国民生活に及ぶおそれがある。こうした情勢のもとでとりくまれる24秋闘で国公労連は、公務員賃金確定、25年度予算査定、公務・公共体制の拡充など諸要求実現をはじめ、25春闘を視野に要求とたたかう体制の確立、対話を重視した組織拡大をめざす決意である。
 人勧期のたたかいに奮闘された全国の仲間のみなさんに心から敬意を表するとともに、引き続く国公産別のたたかいへの結集を呼びかける。

以 上

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