労働組合への説明責任を果たさない人事院
給与制度のアップデートで曖昧な回答
政府と最終交渉、人事院と局長交渉
国公労連は7月25日、政府(内閣人事局)と「2025年度概算要求期重点要求書」の最終交渉、人事院と「2024年人事院勧告にむけた重点要求書」などの中間交渉をそれぞれ配置しました。
内閣人事局交渉では、7月4日に非常勤組合員、18日に各単組代表者が主張した要求にも応答することなく、非常に不誠実な最終回答となりました。
賃金改善では、「国家公務員の適正な処遇の確保」など、政府の基本姿勢が回答されました。2024年春闘は、33年ぶりの5%を超える賃金上昇率が話題となっていますが、民間企業が直面している労働力不足の実態は、企業規模や地域を問わず、人材獲得競争の激化に伴う賃上げにつながっています。8月の人事院勧告がそれを下回れば、国家公務員の給与が日本の低賃金構造を固定化し、デフレからの脱却を阻害しているという批判が拡大しかねません。当日は、政府の責任で人事院勧告を上回る「政策的な賃上げ」を実現する覚悟も必要であることを主張しています。
また、6月に「国の行政機関の機構・定員管理に関する方針」(閣議決定)が10年ぶりに修正され、定員合理化の割合が半減しました。しかしながら、これまでの職場の人的体制では、①業務量に見合わない給与水準の不満、②劣悪な勤務条件の非常勤職員の増大、③長時間・過密労働の蔓延、④両立支援制度の形骸化、⑤健康被害やハラスメントの誘発など、あらゆる勤務条件の悪化を招いてきたことを指摘し、あらためて政府の定員管理政策を抜本的に転換することを求めました。
人事院交渉では、職員福祉局長から、①長時間労働の是正、②仕事と生活の両立支援の拡充、③ハラスメント防止対策、④職員の健康づくり対策、⑤非常勤職員の休暇制度などの回答がありましたが、「引きつづき検討・対処していきたい」という主旨にとどまりました。
両立支援制度は、育児・介護休業法等が5月に改正されたことを踏まえ、子の看護休暇の拡充などを実現していく必要があります。また、人事院が7月に公表した「ハラスメント相談に関する職員アンケート調査」や「健康管理体制の充実のための官民調査」で把握された課題の解消も不可欠です。非常勤職員制度は、6月に「公募3年要件」が撤廃された趣旨を実現する任用の適正化、病気休暇の有給化などを求めました。
給与局長の回答は、8月の給与勧告に向けて、「公務員の給与等の適正な水準を確保する」ことを前提に、「官民格差の最終結果に注目している」という主旨にとどまりました。「給与制度のアップデート」は、「本年の人事院勧告に向けて成案を得るべく、引きつづき職員団体の意見等を伺いながら検討していきたい」と前置きしつつも、新卒初任給の引上げ、地域手当の広域化、通勤手当の見直しなどの措置については曖昧な回答が散見されました。
これまで国公労連は、仮に勤務条件の不利益変更がある場合には、極めて重大な権利侵害となるため、それを回避するための労働組合との協議を求めてきましたが、当日も明確な回答がありませんでした。こうした人事院の不誠実な対応には、当事者である職員や労働組合への説明責任を履行し、労働者の権利を擁護しようとする観点が欠如していると言わざるを得ません。
7月17日には、全国の職場・地域からの要求打電行動を緊急に提起しました。誰一人として、給与水準の引下げを招くことのないよう、労働者本位の給与改善を実現するため、最終回答に向けた追及を強化していく必要があります。
生活改善できる勧告へ中央行動を実施
国民春闘共闘・全労連・公務労組連絡会・全労連公務部会は7月24日、生活改善できる賃上げの人事院勧告を求めて中央行動を実施しました。
人事院前要求行動で主催者あいさつに立った国民春闘共闘代表幹事の小畑雅子全労連議長は「人事院勧告は物価高騰を上回る必要がある。また人事院は給与制度のアップデートを検討しているが分断を持ち込むもの。未来に希望の持てる給与制度を求める」と訴えました。
情勢報告を行った全労連・公務部会の香月直之事務局長は「給与制度のアップデートは勧告2週間前の現時点でも具体案が示されておらず報道で知る程度。断じて不利益変更は許されず、労働組合に対しキッチリ説明すべきである。人事院が賃上げの好循環を止めるのか、労働基本権制約の代償機関としての役割を果たすのかが問われている。すべての組織で組織拡大を行い要求前進を勝ち取ろう」と呼びかけました。
決意表明では、岩手県国公の岩崎保議長が「岩手県の最低賃金は893円。いわて労連の試算によれば、岩手県における25歳の単身世帯で1か月の生活に必要な最低生計費の時給は1700円程度。岩手の最賃はこれの半分だ。月に160時間働いても年収は171万円。低賃金のため地域の将来を担う若い世代が東京や仙台へ流出しており、人口減少の一員にもなっている。また、公務の職場では、長時間過密労働が蔓延する一方、高等学校の新卒初任給が、地場の最低賃金を下回る地域が拡大している。地域手当を原因とする賃金の地域間格差を解消することを基本に、初任給の民間との格差を抜本的に改善しなくてはならない」と述べました。
つづいて星稜会館で「24人勧『給与制度のアップデート』学習&ILO要請〜労働基本権回復のための決起集会」が行われました。
決意表明で国公労連の浅野書記長はILO訪問に触れ、「労働者の権利は国際水準の高さと、日本の水準の低さが際立っている。日本の国家公務員は労働協約締結権が制限されており、国家公務員法でも交渉を会見や意見聴取にとどめられている」として公務労働者に労働基本権の回復が急務だと訴えました。
仲間づくりの道筋が見えた
全労連「ゆにきゃん」フルワークショップ開催
6月29〜30日、全労連の「ゆにきゃん」のフルワークショップが開催されました。「ゆにきゃん」は、仲間づくりをすすめて一人ひとりの組合員・労働者が声をあげ、全員参加型で要求の実現をめざすコミュニティ・オーガナイジングをトレーニングするワークショップです。今回の「ゆにきゃん」には35人が参加し、コーチ・スタッフ18人が運営しました。国公労連からは全司法の猪股陽子書記次長、小田春香中央執行委員、国公労連本部の関口香織中央執行委員が参加。コーチとして大門晋平中央執行委員が運営に携わりました。
参加者からは、「今までもやもやしていた組合活動を変えていく道筋が見えた」「参加者の語るストーリーに共感し、その力を実感した」などの声が寄せられました。
組合員との対話に活かしたい 全司法・小田春香中央執行委員(当時)
ゆにきゃんに参加して、自分自身を振り返るきっかけになりました。それは、自分のストーリーを語るために、関心を持っていることや何を大切に組合活動にとりくんでいるのかを改めて考えたからです。また、演習では考えがまとまらないまま話をすることもありましたが、なんとか言語化して伝えることで自分の考えが整理できるとともに、相手と考え方の共有をはかることができました。
今回学んだことを、これからの組合員との対話に活かしていきたいと思います。
ストーリー・オブ・セルフを仲間に語ってみたい 全司法・猪股陽子書記次長(当時)
今回学んだ中で特に普段の活動に取り入れたいのは、「ストーリー・オブ・セルフ」です。「ストーリー・オブ・セルフ」とは、生い立ち等を紹介しながら自分の価値観を説明することで、今組合活動を頑張っている理由を伝える技法です。グループワークの冒頭で価値観を共有することで、メンバーの発言の真意を理解しやすくなりました。オルグ先や年度初めの執行委員会で自己紹介をするときに、趣味の代わりに「ストーリー・オブ・セルフ」を語ってみたいと思いました。
賃金・定員・宿舎課題で交渉
夏の国公青年セミナーひらく
国公青年フォーラムは6月23から24日にかけて夏の国公青年セミナー2024を開催し、28人の青年が参加しました。
1日目の学習では国公労連の笹ヶ瀬調査政策部長が「政府の定員管理政策と行政体制をめぐる諸問題」について講演し、この間の政府による定員管理が引き起こしてきた問題点について学習しました。また、国公青年フォーラムのメンバーが講師となって人事院、内閣人事局と財務省についてミニ講座を行い、それぞれのグループに分かれ、現場の青年が抱えている問題や当局に訴えたいことを議論し、次の日の交渉に備えました。
人事院との交渉では「青年層には初任給近辺の官民較差が解消されない実態に加え、奨学金の返済など経済的負担は深刻であり、それに加えて、高卒初任給は依然として最低賃金の水準を下回る地域がある」などの賃金課題を中心に訴えました。これまでの回答から前進したものはなかったものの人事院は青年の声に耳を傾けました。内閣人事局との交渉では「定員削減や新採抑制の影響を受け、十分な技術やノウハウが継承されず、職場の専門性が失われている。2級係長をはじめ、職責に見合わない処遇で勤務している職員も増加している」など定員課題を中心に訴えましたが、内閣人事局の対応は誠意あるものではありませんでした。財務省との交渉では「建物や付帯設備の老朽化などが著しいため、女性や若年層のニーズにマッチしたものとなるよう、早急な改修と居住環境の近代化が不可欠である」など宿舎課題について訴えました。財務省からは水回りをはじめとしたリノベーションに前向きな回答はあったものの、その分の使用料の値上げなど引き続き課題が残りました。
夏の国公青年セミナー2024を経て、国公青年フォーラムでも改めて交渉についての姿勢や学習を深め、引き続き青年の要求実現に向けて当局との交渉を強めていくことを確認しました。
運営費交付金の拡充で国民の暮らし守ろう
独法シンポジウム開催
国公労連は6月22日に「国民の権利、安心・安全な暮らしを守る独立行政法人のあり方を考えるシンポジウム」をオンラインで開催し、39人が参加しました。
開会のあいさつで九後委員長は「運営費交付金の削減により優秀な人材の流出や業務・研究の質の低下が生じている。本日のシンポジウムが国民本位の独立行政法人の確立に向けた意思統一の場となることを祈念する」と述べました。
特別講演は八王子合同法律事務所の尾林芳匡弁護士から、「独立行政法人制度20年について考える」という題目で講演していただきました。尾林弁護士は、独立行政法人化は独立行政法人通則法に書かれている「事務・事業の確実な実施」は偽りであり、「実際は国の予算を減らすためだけのもの。業務の効率化や廃止をめざす制度だ」と強調。「いかに予算を確保し、国民のためのサービスの維持や充実を図るかが重要だ」と述べました。その後のパネルディスカッションでは、全経済・産業技術総合研究所労働組合、全通信・研究機構支部、国交労組・航空大学校支部から運営費交付金が減らされたことによる職場の影響などについて報告され、討論を行いました。
独立行政法人の運営費交付金削減により、職場では業務を遂行していくことが困難な状況となり、国民の安心・安全なくらしを守る業務に影響が生じています。
国公労連では、7月23日に運営費交付金の拡充を求め財務省交渉を行うなど、引き続き運営費交付金拡充の運動をすすめていきます。