人勧取扱い政府交渉
機関間・職員間の格差拡大や低水準な賃上げは許されない
国公労連は8月8日、前日の2025年人事院勧告の取扱いをめぐって、政府(内閣人事局)交渉を実施しました。
当日は、とりわけ本府省と地方支分部局の過剰な機関間格差を伴う給与勧告の諸問題を主張し、不均衡な賃金体系を是正することなどを要求しました。
内閣人事局の松本人事政策統括官の回答は、「国家公務員の給与について、労働基本権制約の代償措置である人事院勧告制度を尊重するとの基本姿勢に立ち、国政全般の観点から、その取扱いの検討をすすめていく」などの抽象的なものにとどまっています。
人事院勧告では、①月例給の平均改定率が34年ぶりに3%超となったこと、②前年を大幅に上回る中高齢層の賃金改善、③マイカー利用の通勤手当の拡充と駐車場料金の支給など、いずれも不十分ですが、これまでの要求を実現するものとなりました。
しかしながら、政府が「骨太の方針2025」で「物価上昇を上回る賃上げの普及・定着」などを謳っているなか、約900万人の労働者に影響する国家公務員の賃金改定率としては、あまりに低水準であり、職場の期待感を相当に下回るものです。
厚生労働省が8月1日に公表した「令和7年民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」では、資本金10億円以上かつ従業員1000人以上の労働組合のある企業390社の平均妥結額(定期昇給を含む)は1万8629円、賃金上昇率は5.52%です。国家公務員の平均昇給率を1%程度と想定すれば、依然として1ポイント以上の官民較差が解消されないこととなります。
再任用職員や非常勤職員では、常勤職員との均等・均衡待遇を実現するための措置が見送られましたが、劣悪な勤務条件が放置されることは許されません。
地方軽視の格差拡大は許さない
当初から重要な争点となっていた官民較差の比較企業規模は、50人以上から100ニン以上に改善されました。一方で、本府省は1000人以上とされ、地方支分部局との機関間格差が拡大することとなります。一般職の国家公務員の8割以上が地方支分部局に在職していますが、そこを100人以上にとどめたことが、民間の春闘相場を下回る賃金改定率につながったと判断せざるを得ません。
中高齢層の賃上げを措置しつつ、地域別最低賃金の近傍にとどまっている高卒初任給などを大幅に改善するためには、官民較差に基づく原資が絶対的に不足しています。
しかしながら、本府省の比較企業規模の見直しで得られた官民較差の多くは、本府省業務調整手当の拡充に使用されることとなっています。「本府省の業務の特殊性・困難性の高まり」などを偏重した措置であり、地方支分部局の職務・職責を軽視することは、職員に不公平感を抱かせ、そのモチベーションと組織のパフォーマンスの低下につながるばかりでなく、組織の分断を招きかねません。
国公労連は、本府省業務調整手当の拡充を見送るとともに、地方支分部局も含めて比較企業規模を1000人以上として官民較差を算出し、その原資はすべての世代を対象とする俸給額の引上げに活用することを政府に要求しました。
今後の政府交渉では、個別具体的な回答を得られるよう、さらに追及を強化していくこととしています。
定員管理政策の抜本的見直しを
今後は、定員管理をはじめ、2026年度の予算編成に向けた要求も重要となります。
政府が8月8日に決定した「令和8年度内閣の重要課題を推進するための体制整備及び人件費予算の配分の方針」では、「人手不足が深刻化する中、行政DXにより公務員の数を増やさずに行政サービスを持続できる環境を整備する」という前年度の政策が踏襲されています。
一方で、「国の地方支分部局等の体制整備については、リダンダンシーの確保の必要性や、地方創生に寄与する政策実行機能を効果的に向上させる観点など…にも留意する」「中長期的に行政サービスの品質を維持・確保できるような体制の再構築を検討するとともに、一定期間欠員となっている定員の府省内での組織横断的な活用を進める」など、従前にない観点も反映されており、政府の人的体制をめぐる危機意識も見受けられます。
これまでの定員管理政策の抜本的な転換をめざし、さらに要求を強化していく必要があります。
被爆80年 各なき平和で公正な社会へ
低原水爆禁止世界大会ひらく
8月3日から9日まで、「被爆80年・原水爆禁止2025年世界大会」が広島と長崎で開催され、のべ1万2930人が参加しました。国公労連が運営委員を担った長崎では、1日目(7日)に「被爆80年長崎のつどい」が開かれ、昨年ノーベル平和賞を受賞した日本被団協で代表委員を務める田中熙巳さんのインタビューや長崎の被爆者運動などが紹介されました。
2日目(8日)は、核兵器禁止条約、被爆・核実験被害の実相、青年のひろばなど11の分科会で平和学習や運動交流を行いました。
夕方には国公労連主催の「国公労働者平和のつどい」が開かれ、20人の仲間が参加。長崎平和推進協会の末永浩さんを講師に、原爆被害の悲惨さや被爆されたご家族のことなど、手作りのパネルで被爆の実相を学びました。そして、末永さんは「人間と核兵器は共存できない」と、核兵器廃絶への思いを熱く語りました。参加者からは、「末永さんは当時長崎を離れていて被爆の影響はほとんどなく、それだけにかえって、命を落とされた方々のために、伝えたい、知ってほしいという思いがあふれていて、心打たれました」などの感想が寄せられました。
つどいに参加していた岡久郁子さん(全司法出身)は、広島で第2次「黒い雨」訴訟の原告団長としてのご自身の活動を紹介し、「若いみなさんに被爆者の思いを知っていただくことが大事」と語られました。つどいの後には、参加者たちの平和を願う思いが込められた「寄せ書き」を、千羽鶴ともに平和公園に献納しました。
3日目(9日)は「ナガサキデー集会」が開催され、フランスやアメリカ、マーシャル諸島、韓国、メキシコの海外代表から核兵器廃絶に向けたスピーチが行われ、「高校生平和ゼミナール」の仲間たちが、これまでの活動報告と決意表明をしました。
「人間らしく生きたいと願うすべての人びとと手を携え、人間の尊厳と平和な未来のための壮大な共同をつくり出しましょう」と呼びかける長崎決議を採択した後、フィナーレでは、海外代表や学生などの参加者たちがステージを埋め尽くし、核兵器や戦争のない平和で公正な社会の実現に向けた思いがあふれる場となりました。
【最終回】新たな課税制度の創設
本連載では、応能負担原則(第1回・6月10日号)、個人所得課税(第2回・6月25日号)、消費税(第3回・7月10日号)、法人税(第4回・7月25日号)について、国公労連「税制改革の提言」のポイントを紹介してきました。最終回の今回は、新たな課税制度の創設について紹介します。
近年、特に重要になっているのは、富裕税の創設と、エネルギー税・環境税の実施です。また、金融取引税や、タックス・ヘイブンを利用した課税逃れに対する国際課税システムの構築をはじめ、グローバルな資本の動きに対応した国際連携も急務となっています。
富裕税、金融資産課税が必要
富裕税は、個人が保有する金融資産や不動産などの資産を対象に、純資産(資産から負債を差し引いた額)に毎年度課税する税です。かつてシャウプ勧告によって1950年に導入された経緯がありますが、1953年に株式譲渡所得課税の非課税化等でシャウプ税制が事実上崩壊し、その際、富裕税も廃止されました。
今では市町村税である固定資産税を除けば、毎年経常的に課税される財産課税はありません。相続税、贈与税も資産課税ですが、これらの税は相続や贈与に対し1回限りで課税されるだけで、安定税源にはなりません。
野村総研の推計によれば、2005年から23年までの18年間で、日本の超富裕層世帯数(資産5億円以上)は約2.3倍に、富裕層世帯数(資産1〜5億円)は約1.9倍に増加しています。これは、株式や投資信託などの資産価値の上昇により、これらリスク性資産の比率が高い超富裕層・富裕層の保有資産額が増加したためであり、超富裕層と富裕層はあわせて165万世帯を超え、その純金融資産は約469兆円にのぼります。
富裕層に金融資産が集中している実態を踏まえれば、金融所得(フロー)とともに、金融資産(ストック)に対する課税も議論すべきであり、具体的な課税方法については国際的な動向も踏まえる必要があります。24年のG20ブラジルサミットでは、「超富裕層グローバルミニマム税」(資産10億ドルを超える富裕層の所得税額が保有資産の2%相当額を下回る場合、差額をグローバルに課税する仕組み)が提案されています。公平・公正で、執行・納税コストの観点からも効率的な金融資産課税制度を日本でも検討する必要があります。
環境関連税の引上げを
ヨーロッパでは1990年代から環境関連税を導入し、二酸化炭素の排出削減に努めています。日本でも鳩山内閣時代に20年までに25%削減を目指す政策が出され、12年10月に「地球温暖化対策のための税(環境関連税)」が実施されました。これは全化石燃料に対し、既存の石油・石炭税に上乗せしてCO2排出量1トン当たり289円を課税するものです。その後、段階的に税率が引き上げられ、平年度2633億円の税収が見込まれています。しかし日本の環境関連税の税収は、14年時点でGDP比1.5%に過ぎず、OECD加盟諸国の中では下から6番目と、平均よりも低い水準です。OECDは日本に対し環境関連税引き上げを勧告しています。せめて対GDP比2%程度の税収となる税率に引き上げるべきです。
日本政府はこの間、価格高騰を理由に補助金を出して企業の化石燃料エネルギー消費を促進するなど、2050年のカーボン・ニュートラル目標に対しても後ろ向きの姿勢を示しています。
すでに「気候危機」という認識が定着しているほど、CO2の排出は異常気象と自然災害、環境破壊、食料不安、水不足、経済の混乱をもたらし、紛争やテロを助長しています。今後、全世界で排出量を削減できなければ、気温は2100年までに3度上昇し、私たちの生態系が取り返しのつかないほど破壊される恐れがあります。日本のCO2排出量は世界第5位であり、世界のCO2排出量の約2.9%を占めています。脱炭素社会の実現に向けて、税制面でもさらなるとりくみが必要です。