自民党「日本成長戦略本部提言(労働市場改革・人材育成関係)」の撤回を求める(談
2026年4月23日
日本国家公務員労働組合連合会
書記長 笠松 鉄兵
2014年6月に成立(同年11月施行)した過労死等防止対策推進法の第1条では「近年、我が国において過労死等が多発し大きな社会問題となっていること及び過労死等が、本人はもとより、その遺族又は家庭のみならず社会にとっても大きな損失であること」とされ、「長時間労働の是正」が求められた。そして、政府・厚労省はこれを受ける形で2018年6月に働き方改革関連法を成立させ、時間外労働の上限規制(2024年4月全面施行)が罰則付きで導入されている。
また、厚労省は「過労死等の防止のための対策に関する大綱」を作成するとともに、労働基準行政においては時間外労働にかかる上限規制の遵守徹底や過労死等の再発防止指導などを重点的に行っている。特に、労働基準監督署における長時間労働の抑制及び過重労働による健康障害防止にかかる監督指導は最重点に挙げられている。
しかしながら、業務災害に係る脳・心臓疾患や精神疾患の労災請求は後を絶たない状況にある。厚労省が2025年6月25日に発表した「令和6年度『過労死等の労災補償状況』」では、過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や仕事による強いストレスが原因で発病した精神障害の労災請求件数は4,810件(前年度比212件増)、決定件数4,312件(前年度比1,033件増)、支給決定件数1,304件(前年度比196件増)であり、そのうち死亡・自殺(未遂を含む)件数159件(前年度比21件増)となっており、年々件数が増加している。
こうした中、自民党の日本成長戦略本部は4月15日、「日本成長戦略本部提言(労働市場改革・人材育成関係)(2025年4月9日)」を高市総理に提出した。この提言では、「Ⅰ.労働時間制度の活用促進・運用改善」として「労働基準監督署における対応の見直し」を挙げている。この見直しは「労働基準監督署において、労働者の健康確保を重視した指導を行うこととし、時間外労働を月45時間以内に削減することを求める一律の指導を見直す。その上で、違法な時間外労働とならないように36協定や特別条項の締結に向けた指導・助言を行う」としている。
そもそも、「過労死」という言葉が世界で通用するほど社会問題になるとともに、労災補償における脳・心臓疾患にかかる認定基準についても数度の改正が行われており、こうした経緯を重視すべきである。特に、2021年改正においては、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因が労働時間であり、その時間が長いほど業務の過重性が増すとされている。さらに、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まるともしている。
しかし、自民党の提言では、「時間外労働を月45時間以内に削減することを求める一律の指導を見直す」として過労死の危険性が高まる月45時間を超える時間外労働の労働基準監督署の指導を見直すとしている。労働基準監督署ではこれまで、過重労働による健康障害防止の指導を重点として過労死、過労自殺を引き起こさないための指導を行ってきた。そのため、過労死の危険性が高まる月45時間を超える時間外労働に対して法違反にならなくとも極力削減するよう指導してきた。「労働者の健康確保を重視した指導を行う」と言いながら、この指導を「見直す」というのは全く矛盾したものと言わざるを得ない。
さらに、提言では、労働基準監督署の指導として「違法な時間外労働とならないように36協定や特別条項の締結に向けた指導・助言を行う」としている。これは、時間外労働が法令の上限時間を超える場合、事業主に特別条項の締結を指導して労働基準法違反にならないよう助言・指導することになる。これでは、過労死の危険性が高まる月45時間を超える時間外労働を事業主へ推奨することになりかねず、労働基準監督署の指導としては本末転倒であり、過重労働による健康障害の防止を掲げてきた労働行政の本旨に背くものである。
また、今回の提言によって「長時間労働の是正」に向けた機運の低下につながりかねず、この点も危惧される。すなわち、労働基準監督署ではこれまで、時間外労働の上限規制に関して様々な機会をとらえて周知を図り、監督指導時には事業主に対して懇切丁寧に説明を行いながら「長時間労働の是正」が必要なことを説明してきた。しかし、こうした監督指導の見直しが報道されることにより、監督署が過重労働防止の趣旨についてどれだけ事業主に説明しても理解を得られず、長時間労働の是正に向けて努力している事業主や過重労働の防止に向けて懸命に職責を果たしてきた労働基準監督官のモチベーションの低下にもつながりかねない。
国公労連は公務・公共サービスを担う国家公務の労働組合としてその専門的な知識と能力や条件を生かし、国民のための行財政・司法の実現をめざしている。しかし、今回の提言は過重労働による健康障害を防止するために時間外労働の上限規制を懸命に指導している労働行政の努力を無にするとともに、過労死等を助長しかねない問題を孕んでおり、容認しがたい内容と考える。したがって、多くの労働団体が指摘しているとおり、本提言の撤回を求める。
以 上
