働きがいの持てる定年延長制度の実現で、誰もが安心して働き続けられる社会を(談話)

【私たちの主張:私たちの主張】2020-03-13
2020年3月13日
日本国家公務員労働組合連合会
書記長  九後 健治
 
 本日、政府は国家公務員の定年延長を行うための国家公務員法等「改正」法案(以下、法案)を閣議決定した。
 
 昨年6月21日に決定された「経済財政運営と改革の基本方針2019(骨太方針2019)」では、「人生100年時代を迎え、働く意欲がある高齢者がその能力を十分に発揮できるよう高齢者の活躍の場を整備することが必要である」との認識の下、国家公務員についても「平均寿命の伸長や少子高齢化の進展をふまえ、複雑高度化する行政課題に的確に対応する観点から」定年を65歳に引き上げる方向で検討することとされた。一方、2000年の厚生年金保険法「改正」によって、年金支給開始年齢が段階的に65歳に引き上げられる中、全世代型社会保障検討会議は昨年12月の中間報告で、70歳までの就業機会を確保しつつ年金の受給開始年齢の選択肢の幅を75歳まで拡大する必要があるとし、政府はその内容を盛り込んだ年金制度改革の関連法案を来年の通常国会に提出する方針だとされている。しかし、働く高齢層の増加は、「意欲がある」からではなく、年金制度の破壊とアベノミクスによる格差拡大の下で、生活するために働かざるを得ない状況があるに他ならない。
 こうした中で行われる定年延長は国家公務員の60歳以降の働きがいと生活維持に資するものであることはもちろん、民間労働者の労働条件を維持・向上させるものでなければならない。
 
 法案では国家公務員の定年年齢を2年に1歳ずつ引き上げ2030年4月で制度を完成させるとしているが、そのことによって定年退職が発生しない年が2年に一度生じることとなる。国家公務員の定員は総定員法で定められており、総人件費抑制方針の下、毎年2%の定員削減が職場に押しつけられている現状に鑑みれば、新規採用は2年に1度しか行えなくなる。他方、制度完成までは現行の再任用制度と同様の「暫定再任用制度」を措置するとしているが、現在フルタイムでの再任用を希望しても「厳しい定員事情等もあって〈中略〉勤務形態は短時間勤務の者が約8割」(2019年公務員人事管理に関する報告)となっている。公務における年齢構成の是正を進めながら安定的で質の高い行政サービスを提供するとともに、雇用と年金の確実な接続を実現するためには柔軟な定員管理を可能とすることが不可欠である。また、医療や航空管制など業務を遂行するうえで体力や瞬時の判断能力が求められる業務にまで一律で定年延長を導入することは、国民の安心・安全にも関わる問題であり、実態に見合った対応が必要である。
 
 60歳に達した職員の給与水準は人事院の「意見の申し出」をふまえ、「当分の間」俸給月額を「7割水準」に下げるとしている。特定の年齢に達したことをもって職務を変えずに給与を切り下げることは職務給の原則に反する。そもそも人事院は2018年の「意見の申し出」において「7割水準」の根拠を賃金構造基本統計調査と職種別民間給与実態調査の結果だとする一方で「『民間給与実態調査』においては定年が60歳を超える事業所の多くは一定年齢到達を理由にした給与の引き下げは行っていなかった」「60歳を超えても引き続き同一の職務を担うのであれば、本来は、60歳前後で給与水準が維持されることが望ましい」としている。「当分の間」とはいえ、60歳超職員の生活維持はもとより、若い世代を含めた職員のモチベーションや民間企業への影響などをふまえれば年齢を理由に給与水準を引き下げることは重大な問題である。
 給与水準という点では再任用制度の改善も喫緊の課題となっている。定年延長後に措置される「暫定再任用制度」および「定年前再任用短時間制度」における給与のしくみは現行再任用と同一内容とされているが、現行制度では給与水準は現役時代の約6割以下になるうえ、住居手当や寒冷地手当などの生活関連手当は支給対象とならないなど、安んじて公務に専念できる処遇とはとうてい言えるものではない。
 
 また、法案では「管理監督職勤務上限年齢」(以下、役職定年制)を導入し、60歳の時点で管理監督職の地位にある職員を管理監督職以外の官職に異動させるとしている。管理監督者の定義は俸給の特別調整額適用官職で地方出先機関を含むとされており、ハローワークや法務局、河川・国道事務所などの課長職以上も対象となる。こうした第一線機関の課長職は職員のマネジメントや業務の進行管理はもとより、定員削減で体制が弱体化した窓口業務などにも従事しており、職場にはなくてはならない存在となっている。現在でも級別定数の不足により本省庁と比べて昇格水準が劣悪なうえ、管理監督職以外の官職への異動は降格を伴うケースが多く、一定の歯止めがなければ「主任級(2級)または係長級(3級)のものが約7割を占め」(2019年公務員人事管理に関する報告)る現行再任用と同様の状況になることは想像に難くない。また、役職定年制によって降格させられた場合「差額」が措置されるものの、賞与などへの影響を加味すれば「二重の賃下げ」と言わざるを得ない。さらに、本省以外の組織は高齢層が多く若年層が少ないという年齢構成になっており、降格に伴う年齢と立場の逆転や新規採用にブレーキがかかることによって職場に混乱をもたらし、安定的な行政運営に支障をきたす懸念も払拭できない。
 
 さらには、定年延長の前提条件として、能力や実績に基づく評価を徹底し、給与に適切に反映することとされている。2009年に人事評価制度がスタートして以降、数値偏重主義の蔓延や職場のチームワークの破壊などさまざまな問題が指摘されている。森友・加計問題を発端にクローズアップされた官僚による忖度問題は、内閣人事局が人事権を握ったことで官僚が官邸の意向ばかり気にするようになったからだといわれているが、能力・実績主義の強化はいっそう行政を歪め国民の権利や安心・安全を脅かすことにつながりかねない。
 
 今回の国家公務員の定年延長問題は、私たち国家公務員労働者が全体の奉仕者としての使命を自覚し、国民の権利や安心・安全をまもり続けるため、さらには官民を問わず年齢による賃金差別を許さず誰もが安心して働き続けることのできる社会の実現をめざすのか、それとも格差と貧困の拡大、社会保障の改悪、企業にとって都合のよい「働き方改革」などによって、働きがいを見失い生きづらさを抱え続けなければならない社会かという選択のひとつと言える。
 私たち国公労連は、国民本位の行財政・司法の確立のためにも幅広い労働者・国民と手を携えながら、要求実現をめざし法案成立までたたかう。