国公労新聞2016年6月25日号(第1464号)

【データ・資料:国公労新聞】2016-06-25
【参議院選挙】憲法をモノサシにして正しい選択を

 参議院選挙が公示され、各党が選挙政策を発表しています。野党共闘の実現、18歳からの投票参加などこれまでにない新しい流れのなかで、今回の選挙の最大の焦点は、憲法をまもる勢力を国会でどれだけ大きくしていくかにあります。

 「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(以下、市民連合)は6月7日、首長選挙などでの政策協定にあたる「要望書」を、民進、共産、社民、生活の4野党と取り交わしました。「市民連合」は、国公労連も結集する「総がかり行動実行委員会」など5団体が呼びかけて昨年12月に発足した組織で、全国32の参議院1人区での「野党統一候補」につづいて、政策面でも4野党の共闘がさらに一歩前にすすみました。
 「要望書」は、戦争法廃止はもとより、安倍政権の改憲阻止、沖縄新基地建設の中止、TPP合意反対、原発に依存しない社会の実現、格差と貧困の是正、長時間労働の規制や均等待遇の実現など項目は多岐にわたっています。これらの政策は、憲法にもとづいて「すべての国民の個人の尊厳を無条件で尊重」(要望書)する立場がつらぬかれています。
 一方、自民・公明の与党は、選挙の争点をアベノミクス一本にしぼり、安倍首相が声高に叫んでいた明文改憲の主張はすっかり影をひそめました。
 一昨年の衆議院選挙と同じように、バラ色の「経済対策」で国民をあざむいたうえ、他の改憲勢力とあわせて3分の2の議席をかすめ取ろうとしていることは許されません。
 「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」をすべての国民に保障した憲法に照らせば、格差の解消こそが求められており、一部の大企業や大金持ちだけに富をもたらして、格差を拡大させたアベノミクスはただちに中止するしかありません。経済でも暮らしの問題でも、消費税増税など税金の取り方、使い方でも、どの候補者や政党が、憲法をまもりぬき、暮らしや行政に生かす政治を実行しようとしているのかが、今回の参院選の選択の基準です。
 いよいよ7月10日は投票日。憲法が問われる選挙だからこそ、憲法尊重擁護の義務を負い、憲法にもとづいて日頃の仕事をしているわたしたち国公労働者が一票を投じて、憲法の精神が暮らしや行政のすみずみに息づく政治をつくりだしていく必要があります。



 
 
夏季闘争スタート ― 重点要求書を提出

政府は使用者責任を果たせ
人事院は扶養手当「見直し」改悪中止せよ

 国公労連は6月10日、政府・内閣人事局に「概算要求期重点要求書」を、15日には人事院に「人勧期重点要求書」を提出し、政府・人事院に対する夏のたたかいを本格化します。
 国公労連が概算要求期となるこの時期に、政府あて要求書を提出するのは初となります。「公務員制度改革」によって内閣人事局が設置され、使用者としての権限が強化されたことから、その権限にふさわしい使用者責任を果たすようにせまり、次年度の予算編成に要求を反映することを求めるものです。
 具体的には、公務員の増員、賃金の大幅引き上げや、雇用と年金の確実な接続の課題をはじめ、ただちに対応が必要な課題について、あらためて、政府・使用者としての迅速かつ責任ある対応を求めるものです。
 今後、定員管理の課題では24日に署名を積み上げての交渉を配置するほか、7月8日に非常勤職員が参加しての交渉配置など、課題をしぼった政府交渉を積み重ねていきます。
 さらに、7月27日の中央行動では、全労連公務部会規模で内閣人事局前行動を配置し、政府追及を強めていきます。
 人事院に対しては、誰もが生活改善を実感できる月例賃金の大幅引き上げを重点とし、追及を強めていきます。
 今勧告に向けては、政府の検討要請にもとづく配偶者にかかる扶養手当「見直し」改悪や、「雇用保険法等の一部を改正する法律」の成立をうけた育児・介護休業制度等に公務における両立支援制度拡充の課題などが、大きな焦点となっています。
 今後、交渉配置とともに、全労連公務部会が提起している「公務労働者の賃金・労働条件の改善を求める署名」「雇用と年金の確実な接続を求める署名」に職場の声を託し、政府・人事院を追い込むことが重要です。
 とりわけ、扶養手当「見直し」改悪の問題は、安倍内閣が、女性の働きやすい環境整備の方策に位置づけているものですが、見直し自体に何ら合理性はありません。人事院は、政府・使用者側に偏重することなく、公正・中立な第三者機関として、全国転勤を伴う国家公務員の勤務や生活の実態から不可欠な制度であることを、逆に政府に意見すべきです。
 扶養手当の「見直し」改悪の検討中止を求める要請電を人事院に集中することをはじめとし、改悪阻止にむけたとりくみの強化が重要です。
 切実な要求実現へ職場・地域での一層の奮闘が求められています。




 
第50回行(二)集会
仲間の要求実現へ奮闘しよう 

 6月4日に、国公労連第50回行(二)労働者全国集会が開催されました。
 1961年の第1回開催から半世紀を超え、50回の節目をむかえた全国集会は、前日(3日)には、人事院交渉の後、人事院前要求行動、夜には記念交流会が開催されました。
 人事院交渉では、「行(二)職員の労働条件改善を求める要求書」を提出し、賃金、昇格、雇用と年金の確実な接続などで、職場や生活の実態を訴え、厳しく追及しました。交渉には、行(二)職4人を含む15人が参加しました。
 交渉に引き続き、「人事院前要求行動」がとりくまれ、全体で80人が結集し、行(二)職員の労働条件改善、すべての労働者の大幅賃上げ、扶養手当「見直し」反対などを訴えました。
 主催者あいさつで岡部委員長は、「かつて5万人を超えていた全国の行(二)労働者が、今や3千人足らずまで減っている。政府による合理化の最前線に立たされてきた行(二)労働者の労働条件改善に向け、さらにとりくみを強化しよう」と訴えました。
 行(二)職組合員からの決意表明では、「行(二)労働者の要求実現のため自ら先頭に立ってたたかう」(全法務・瀧本さん)、「職場には若い仲間もいる。展望と誇りを持って働き続けられるよう運動を続けていく」(国土交通労組・足立さん)とたたかう決意が語られました。
 第50回行(二)労働者全国集会は、上野の水月ホテル鴎外荘で開催され、運転手、厚生福祉職員、守衛など9人の行(二)職をはじめ、全体で27人が参加しました。
 集会では、記念企画として、「しろたにまもる」さんの腹話術が上演されました。戦後日本の教育問題や憲法「改正」の危険なねらいなど、皮肉を込めてユーモラスに語られ、また、長崎出身のしろたにさんならではの、自身の家族の被爆体験や、東日本大震災後の慰問公演の様子なども、写真を交え分かりやすく紹介され、あらためて戦争の悲惨さや、日本の政治の有り様を考えさせられる機会となりました。
 全体会議は、単組の相互交流と、とりくみへの意見交換が行われ、1時間を超える熱心な討論となりました。「行(二)職では定年延長でないと問題が解決しない」、「不補充方針で行(二)職が減り続け、部下数制限で昇格できない」など、定年延長や部下数制限撤廃による昇格改善を求め活発な議論となりました。
 こうして、引き続きたたかう決意をあらたにするとともに、次回以降も、多くの仲間の参加で成功させるべく奮闘することを確認し、節目の集会は終了しました。



 
 
いのち・雇用・平和をまもろう
非正規全国交流集会in北海道 

 第24回「非正規ではたらくなかまの全国交流集会」が6月4日から2日間、北海道札幌市で開かれ、全国からのべ960人が集まりました。
 「いのち・雇用・平和まもる政治をとりもどそう」をテーマとした、上智大学の中野晃一教授による記念講演では、アベノミクスの問題点や格差と貧困の拡大、軍事費と軍需産業などの実態を解説し、「労働運動や市民運動の盛り返しがカギを握っている。時間はかかっても必ず前進する。確信を持ってたたかい抜こう」と呼びかけました。
 さっぽろ青年ユニオン、全労働北海道支部、エフコープ労組、郵政20条裁判原告団、東京公務公共一般CAD争議、資生堂アンフィニ分会から、リレートークでの報告がされました。
 全体会終了後は、札幌市内で「サウンド♪デモ」を展開し、「最低賃金いますぐ上げろ」「7月10日私は選ぶ」とコールし、「選挙に行こう」と呼びかけました。
 2日目は15の分科会が行われ、分野別に学習し議論を深めました。「このつながりが財産」「来年は静岡でまた会いましょう」と、終わりの会で呼びかけられました。



 
 
  「国の地方出先機関は重要」の世論広がる
43人が紹介議員に  


 昨年度に引き続き、各ブロック国公は「国の出先機関と独立行政法人の体制・機能の充実を求める請願署名」(ブロックオリジナル署名)の請願採択のため、地元国会議員事務所への訪問・懇談、署名推進のために労働組合への要請行動など、多彩な活動にとりくみました。
 九州ブロックは県労連や農協労連と協議し、国の出先機関の拡充の課題だけでなく住民本位の「地方創生」の実現の要求も請願項目に盛り込むなど幅広い共同を進めました。
 4月にとりくんだ国会内での要請行動において、事前に地元事務所と連携がはかられたところは直接国会議員と懇談し、「出先機関の重要さが分かった」「職員を減らしすぎてはいけない」「紹介議員になれなくても請願内容は理解する」などの対話が広がりました。
 これらブロック署名の請願結果は審査未了でしたが、紹介議員数は昨年の27人から43人へと大きく前進。国の出先機関の機能・拡充を求める世論が広まっていることが実感できるものでした。


 
 
【インタビュー】最低賃金1500円のリアリティ
都留文化大学名誉教授 後藤 道夫さん

ごとう みちお 1947年、福島県生まれ。一橋大学大学院博士課程単位取得退学。都留文科大学名誉教授。専攻は社会哲学・現代社会論。著書に『収縮する日本型〈大衆社会〉経済グローバリズムと国民の分裂』(旬報社)、『反「構造改革」』(青木書店)、『戦後思想ヘゲモニーの終焉と新福祉国家構想』(旬報社)、『格差社会とたたかう 〈努力・チャンス・自立〉論批判』(青木書店)、『なぜ富と貧困は広がるのか 格差社会を変えるチカラをつけよう』(共著、旬報社)、『ワーキングプア原論 大転換と若者』(花伝社)、『失業・半失業者が暮らせる制度の構築 雇用崩壊からの脱却〈シリーズ新福祉国家構想〉』(編著、大月書店)など多数。

 AEQUITAs(エキタス)など若い世代による最低賃金1500円をめざす運動が広がっています。7月10日に投開票される参議院選挙にあたって、若年層が置かれている状況と、経済イシューでの対抗運動の重要性について後藤道夫都留文科大学名誉教授にインタビューしました。その一部分を紹介します。インタビューの詳細については、『KOKKO』7月号に掲載しますので、ぜひご購読ください。(聞き手=国公労連調査政策部・井上伸、インタビュー収録=5月13日、タイトルと中見出しの文責=編集部)


 
最低賃金プラスαの労働者が広がっている
 
―最低賃金1000円では生活保護基準以下になりますね。
 労働組合は力関係のリアリティという点でやむを得ず最低賃金1000円を要求してきたという解釈もできるのですが、たぶんそれだけではありません。日本の場合、最低賃金の特殊な位置があったからだろうと思います。
 日本の場合、男性の正規雇用賃金が男性世帯主賃金という世帯の生活できる賃金というふうに年功型賃金が性格づけられて、それと対比されて家計補助労働者の賃金という構造にある種、制度化されてしまった。他の国々は同一労働同一賃金原則、均等待遇の原則がどんどん整備され、そして最低賃金額が上がり、当初の女性と年少労働者を特にという位置づけが実際問題として相当下がってきました。現在は欧米だとすべての不熟練労働者の最低賃金という位置に落ち着いてきていると思います。日本の場合には、すべての不熟練労働者の最低賃金とは落ち着かないで、年功賃金の体系とは全く別の家計補助労働者の最低額に位置が落ち着いて固定化してしまった状態が何十年も続いたということです。
 図は5人以上の事業所で、男女労働者計で短時間労働者も全部含んでいますが、最低賃金の加重平均プラスαよりも下にいる人たちが何%いるかという数字です。たとえば1割増しのところを見ると、2001年では最低賃金の1割増し以下にいる男女労働者は4・2%だったのが2015年には10・1%になっているのです。2割増しで8・1%が17・4%に、3割増しで12・4%が24%になっています。
 こうした状況が広がっていますから、自分がこれから先、年功賃金を見込めるかというと、たぶん見込めないと判断する人が増えている。そして、1500円という数字の根拠ですが、1500円を155時間(フルタイム労働者の1カ月の所定内労働時間の平均)で計算すると279万円になりますから、全労連が実施している最低生計費試算調査で出している数字と同じぐらいになります。

 
最低賃金1500円と経済イシューでの社会運動の重要性
 
―最賃1500円の運動をどう見ていますか?
 最低賃金1000円から1500円への「要求のリアリティ」が生まれた背景に日本型雇用の大きな衰退があり、家計補助労働と世帯主賃金という区分が役に立たなくなってきたことの反映だということと、もう1つ大事な点は、これが市民運動として現れたということの意味だと思っています。やはり労働組合が最低賃金を扱う扱い方が狭過ぎたのではないか。いままでの労働組合の最低賃金の扱い方は、地域の最低賃金審議会や国の中央最低賃金審議会にどういう運動を行い、どのぐらい審議委員をきちんと送り込んでいくかという話です。
 これはずいぶんご苦労されてやってこられたと思いますが、「要求のリアリティ」が1500円だと感じている大半の人には実は届いていないので、世の中を動かす大きな力になりにくいと思うのです。いま多くの人たちに届く社会問題のキャンペーン、経済イシューのキャンペーンを大きく展開する必要があります。
 このキャンペーンの重要性という話を、労働組合の側はいまひとつわかっていないところがあるのではないかと考えています。キャンペーンをやったからといって、少々上げる力にはなるでしょうけれど、すぐにそれが実現の力になるわけではないし、労働組合の実力は具体的に組織するしかないわけですから、その力にすぐになるわけでもない。
 しかし、大きなキャンペーンをやって若い人たちが陥っている社会的な危機状態に、労働組合はよくそのことを理解してそのためにたたかっているのだという姿勢を、一番大事なこととして見せてほしい。その辺のキャンペーンの現在の社会での重要性みたいなものが、いまひとつピンときていないのではないか。だから市民運動という形式で出てきたのだろうなというのが1つです。
 もう1つは、実は市民運動の形式がこの数年間でずいぶん発達したということだと思います。AEQUITASの運動の仕方というのは、原発反対の市民運動と戦争法反対の市民運動の影響といいますか、高みをちゃんと受け取って、それでやっているわけです。その意味でここ数年発達してきたというか、日本の中に定着してきた市民運動の形式をちゃんと受け継いでやったので、とても多くの若者にとって魅力のあるデモになっているということがもう1つあると思います。

 
労働組合は大規模キャンペーンの展開を
 
 そのときに旗問題というのがあったわけです。原発のときからずっとありますが、これは日本の労働組合の運動がどのぐらい普通の若い人たちから見て距離が遠いのかということに、労働組合の側はもう少し思いをいたしてほしいと思います。労働組合が旗を持って大量に参加するということでないと、最後の段階では何十万という人たちは集まってこない。これは市民運動の人たちもよく知っていると思います。最終的にはそういうふうに人々が集まって一緒に大規模なデモンストレーションをやりたいと、市民運動の側はみんなそう思っていると思うのです。
 しかし、スタートするときにはいきなり旗が林立すると市民運動のイシューが十分に世間に伝わらない。最初しばらく独自性をしっかりとつくるまでは労働組合の旗を林立させないでくれと実際にやっているわけです。これはある意味では市民運動の方がはるかに政治的にたけているということを意味しています。労働組合が、労働組合の利益を得てない人たちからどう見えているかという問題について、もっとよく考える必要があります。
 たとえば、日本の非正規と正規雇用の身分の差は法制度的にもかなりがんじがらめにされてきたところもあって、実際に整理解雇の4要件でも、あらかじめ十分な努力を行ったかという要件で、非正規をまずクビを切ったかという話が当然のように入っているわけですね。非正規をまず先にクビを切れという話で合意してきた労働組合を、非正規の人たちがまず自分の味方だと思うのかといえば、それは思うわけがないでしょう。だから、この旗を持っている人たちは自分たちとは異質な人たちだとかなり多くの人が感ずるのは当たり前の話であって、そうではないということは、逆に労働組合の側が運動で見せて説得してくれなくてはいけないことで、そう感じることがおかしいという方がおかしいと思います。
 そうした点をクリアーしながら、労働組合は今回の参議院選挙において、経済イシューについての大規模なキャンペーンを展開して欲しいと思います。