労働者派遣法の大改悪に抗議する(書記長談話)

【私たちの主張:私たちの主張】2015-09-11
雇用と労働条件を劣化させ、人材ビジネスに利益誘導する制度は認められない
正社員から派遣労働への置き換えを促進する労働者派遣法の大改悪に抗議する(談話)
 
2015年9月11日
日本国家公務員労働組合連合会(国公労連)
書記長 鎌田 一
 
1、安倍政権は本日(11日) 、参議院が施行日等を「修正」して回付した「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下、労働者派遣法)」等の一部を改正する法律案(以下、法案)について、衆議院本会議での採決を行い、強引に成立させた。
 法案は、常用代替防止の原則を骨抜きにして、「生涯派遣」や「正社員ゼロ社会」に道を開くことから、ナショナルセンターの違いを超えて労働組合がこぞって反対し、国会でも野党が反対していたように、労働者にとっては改悪となる法案である。そのことは、直近の世論調査(9月1日付日経新聞)で、派遣労働者の68%が改悪法案に反対し、その最大の理由として「根本的な地位向上にならない」と答えていることからも明らかである。
 
2、労働者派遣は、諸外国では、特別な技能が必要な職種や育児休業等の代替などで限定的な期間に派遣することを想定した制度で、均等待遇と常用代替防止は最低限の原則である。日本も、労働者供給事業(派遣事業を含む)や雇用仲介事業(有利職業紹介事業)については、強制労働や中間搾取の温床となることから、1947年に制定された労働基準法(※注①)及び職業安定法でそれらの事業を原則禁止していた。
 しかし、1985年に違法な派遣事業を規制することを名目として制定された労働者派遣法及び「改正」職業安定法によって、労働者派遣が労働者供給の適用範囲から除外され、労働者派遣事業が認められた(※注②)。当初、労働者派遣法では、不当搾取の防止や長期雇用システムの浸食防止のため、派遣元及び派遣先企業を規制し、労働者派遣を臨時的・一時的な業務に限定して、常用労働者の代替とはしないことを原則とし、13の専門職に限定して認めてきた。
 このように、本来限定的であるべき労働者派遣制度であるが、日本では、財界・人材ビジネスなどの要求によって、対象業務の拡大と派遣期間制限の緩和など、度重なる法「改正」が行われ、均等待遇の規定が存在しないことから劣悪な処遇の派遣が横行するなど、安価な労働力として活用されるように、その性格が変化してきた。その一方で、派遣労働者の総数は、252万人(厚生労働省、平成25年度労働者派遣事業報告書集計結果)、年間5兆円を超える巨大市場に発展して、人材ビジネスに莫大な利益をもたらすまで拡大した。
 その流れに歯止めがかかったのが、リーマンショック後に表面化した大量の派遣切りの実態である。それらがきっかけとなって、格差と貧困が社会問題化した。そして、行き過ぎた新自由主義を修正して、派遣労働を含む非正規雇用に対する国の規制強化を求める世論が高まった。
 しかし、第2次安倍内閣の発足で事態は一変した。
 安倍首相は、「世界で一番企業が活躍しやすい国」づくりを打ち出し、新自由主義的改革を推進する姿勢を鮮明にした。財界はこの機に乗じて、労働法制の大胆な規制緩和を求め、それに応じた安倍政権は、企業の「稼ぐ力」の強化のために労働法制を岩盤規制と称して、労働者保護規制をとりはらうことを成長戦略の政策として掲げ、その先駆けとして労働者派遣法の規制緩和を推進した。
 
3、成立した「改正」労働者派遣法(以下、「改正」法)は、無期雇用派遣労働者を派遣期間制限の対象外とした。有期雇用派遣労働者については、期間制限のなかった26業務も含めて一律3年を派遣期間の上限とした。さらに、これまで「業務」単位に設けられていた派遣期間制限を「個人」単位に切り替えたため、人を入れ替えれば無制限に派遣労働者を使用できるというもので、臨時的・一時的としていた常用代替防止の原則を事実上骨抜きにした。
 また「改正」法では、すべての労働者派遣事業を許可制とした。しかし、これまで届出制だった事業は、比較的問題の生じにくい常用型派遣の特定労働者派遣事業であり、その他はこれまでも許可制だった。実効ある制度にするためには、既存の事業を含めた許可基準をより厳格にするとともに、派遣事業の許可と監督・指導等の実務を担う都道府県労働局の需給調整部門の体制確保が不可欠であるが、その裏付けは「改正」法にはない。
 政府は、法案の国会審議に際して、「正社員に道を開く」と繰り返し答弁していたが、その根拠としていたのは、新たに盛り込まれた雇用安定措置である。しかしその内容は、派遣会社に計画的な職業訓練や派遣先企業への直接雇用の依頼等を義務づけているのみである、そもそも、経験と技術があっても派遣労働を余儀なくされている実態から、職業訓練だけでは正社員に道を開くとは言えない。また、直接雇用を回避するために派遣労働を受け入れている企業の実態からすると、依頼だけで簡単に正社員化することは、これまで同様に期待できない。むしろ現行法では、3年受け入れた企業は直接雇用の義務が生じるが、「改正」法は人を入れ替えればそれで済むことになり、正社員化とは逆行する。さらに、「労働契約申し込みみなし制度(以下、「みなし制度」)」を骨抜きにした政府の対応がそのことを裏付けている。
 
4、2012年の法改正で、違法派遣の場合に「派遣先から派遣労働者に労働契約の申し込みをしたものとみなす」(第40条の6の1項)という「みなし制度」が、本年10月1日に施行されることとなってる。この制度が施行されると、派遣受入企業は派遣労働者を直接雇用しなければならない。そのため、法の施行日について「政令で定める」とすることが一般的であるが、この法案は「みなし制度」施行前の9月1日を施行日として明記していた。これは、法案が当初から「みなし制度」を回避する意図があったことを示すものである。
 その背景に財界の意向が働いていたことは、国会で問題となったいわゆる「10.1問題」文書でも明らかになった。問題の文書では、「経済界等の懸念」として「現行制度のまま(「みなし制度」が)施行されることを避けたい」という意向があり、それに配慮して早期成立を国会議員に促していたことが問題になった。
 「改正」法にも「みなし制度」は存置されているものの、現行法で最も多いと想定されている「業務単位の派遣受入期間制限違反」が「改正」法では、違反とはならないため、効力が生じなくなる。また、「改正」法の附則で「施行日前に締結された労働者派遣契約に基づき行われる労働者派遣については、なお従前の例による」との規定があるにもかかわらず、政府解釈では「改正法施行時に施行されていない制度は適用にはならない」と、「改正」法施行日前の業務単位の派遣受入期間違反があったとしても、「みなし制度」の適用を否定した。これは、違法派遣を免罪するとともに、「みなし制度」を期待し、違法派遣に堪え忍んできた労働者の期待を裏切り、正社員化への道を閉ざすものである。
 また、法案の審議が大幅に遅れたにもかかわらず、政府は、参議院での採決当日に修正動議を行い、施行日を9月30日に「修正」し、あくまでも「みなし制度」施行日の前に施行することにこだわったことは、直接雇用を拒否する財界側の懸念の大きさがうかがえる。とはいえ、法律の公布から施行までに40を超える省令・指針の規定の制定・改定が必要であり、労働者の権利に関わる規定であることから労働政策審議会で慎重な審議が必要であるにもかかわらず、3週間にも満たない期間に施行を強行すること許されるものではない。
 
5、以上のように「改正」法は、政府のいうところの「正社員に道を開く」ものではないし、派遣労働者の処遇についても、諸外国で標準とされる均等待遇ではなく「均衡待遇」という曖昧で実効性に乏しい規定にとどめている。「改正」法の真のねらいは、派遣労働者を安価な労働力として、正社員との置き換えを促進するという使用者側にのみ都合の良い、労働者使い捨て自由の社会をめざそうというものである。また、人材ビジネスにとっては、国の雇用政策が雇用維持型から労働移動型へと転換する中で、派遣労働の拡大よる利益に加え、政府が人材ビジネスの活用を打ち出していることから、労働移動にともなう国の事業や助成金など、莫大な利益が期待できるものである。
 また、政府が6月に閣議決定した「規制改革実施計画」では、原則禁止としている雇用仲介事業の法規制緩和の検討を打ち出しており、有料職業紹介事業の拡大、求人・求職者情報のさらなる提供など、人材ビジネスの利益追求のための要求はとどまるところを知らない。
 これらがすすめば、ごく一部の正社員以外は劣悪な処遇の派遣労働者など非正規労働者ばかりの社会になり、「中間搾取」横行し、すべての労働者の雇用と労働条件が劣化することは明らかである。
 
6、他方で、労働法制改悪阻止のたたかいは、「雇用共同アクション」など、ナショナルセンターの違いを超えてひろがり、「改正」法の成立は許したものの、最終版で形式的ではあるが一部修正させるとともに、運用にあたっての膨大な附帯決議を認めさせた。また、今国会では、労働基準法改悪法案や外国人技能実習新法案の成立を現時点で許していないなど、私たちのたたかいが、政府を追い込んでいることは確かである。
 労働法制の改悪は、公務員労働者の雇用と労働条件に密接に関連する課題である。国公労連は、「誰もが安心して働き続けられる社会をめざす」立場から、労働法制改悪に反対の立場を明確にして、一致する要求での共同のとりくみをさらに追求するとともに、人間らしく働くルール確立にむけてさらに奮闘する。
 
【※注①】労働基準法抜粋
 第六条(中間搾取の排除) 何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。
 
【※注②】職業安定法抜粋
第四条第6項 この法律において「労働者供給」とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律 (昭和六十年法律第八十八号。以下「労働者派遣法」という。)第二条第一号 に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする。