基本的人権の侵害、もの言わぬ公務員づくりに反対する
――特定秘密保護法案の国会提出にあたって(談話)

【私たちの主張:私たちの主張】2013-10-29
2013年10月29日
日本国家公務員労働組合連合会
書記長 鎌田 一


1、政府は25日、特定秘密の保護に関する法律案(以下、特定秘密保護法案)を閣議決定し、国会に提出した。
 この法案は、政府が9月3日から行った法案概要に対するパブリックコメントにわずか15日間で90,480件もの意見が寄せられ、反対が約8割にも上り、国民の権利に影響を及ぼしかねない内容をともなっていた。
 政府は、「国民の基本的人権を不当に侵害することはあってはならず、国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分配慮しなければならない」(第21条)という条文を加えたものの、法律の枠組みは全く修正されておらず、反対意見は十全に反映されたとはいえない。
 そのため、共同通信社が閣議決定直後の10月26、27日に行った世論調査では、特定秘密保護法案に反対が過半数、8割以上が「慎重に審議すべき」と答えるなど、国民の警戒感がきわめて強い。
 さらに、閣議決定後は、新聞各紙がこの法案を大きく取り上げ、反対や懸念を一斉に報じ、日本弁護士会連合会、憲法・メディア法研究者、刑事法研究者が法案反対の声明を発表するなど、法案が憲法で保障された基本的人権などを侵害する危険性が高いことが各方面から指摘されている。

 
2、法律の目的は、「我が国の安全保障に関し、特に秘匿が必要な情報を的確に保護する体制を確立した上で収集し、整理し、及び活用することが重要であることを鑑み、当該情報の保護に関し、特定秘密の指定及び取扱者の制限その他必要な事項を定める」(第1条)としている。
 しかしこの法案は、国の機関が持つ情報の原則公開を定めた情報公開法(2001年4月施行)と相容れず、なぜ特定の秘密を保護する新たな法律が必要なのかに疑問がある。
 この法律のもととなった「秘密保全のための法制の在り方について」(2011年8月8日。以下、有識者会議報告書)をとりまとめた「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」(2011年、政府が設置。以下、有識者会議)の目的は、当初、過去に生じた尖閣沖の漁船衝突事件の映像流出などの例をあげて、秘密保護の在り方の検討が進められた。
 しかし、有識者会議で例示された事案を含め、過去に生じた情報流出等の事案は、現行の国家公務員法で対処され、特段の問題は生じていない。
 それにもかかわらず有識者報告書では、立法の目的を「国家公務員法等で一般的な守秘義務が定められているが、秘密の漏えいを防止するための管理に関する規定がない上、守秘義務規定に係る罰則の懲役刑が1年以下とされており、その抑止力も十分とはいえない」という結論にいきついている。
 これに関して東京新聞は、有識者会議に関わって「ごく簡単な議事概要しか残していない。議事録は作成していないと主張し、職員のメモは廃棄していた。内閣情報調査室が事前に詳細な「事務局案」を作成するなど、官僚主導で議論は進められた」(10月26日)と報じていように、立法事実が不透明である。
 国家公務員については、国家公務員法第100条1項で「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする」とされ、違反した場合は、懲戒処分のほか「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と処罰の対象にもなる厳しい規定があり、厳格に運用されている。
 したがって、公務の公正・中立な運営にかかわって、新たな秘密保護の法律は、まったく必要ないと考える。

 
3、特定秘密の範囲についても重大な問題がある。法案は特定秘密を、別表で①防衛、②外交、③特定有害活動の防止、④テロリズムの防止の4項目と定め、それらに関する情報であって「その漏洩が我が国の安全保障に著しい支障を恐れがあるため、特に秘匿する必要があるもの」(第3条)と規定している。
 特に問題なのは、特定有害活動の防止とテロリズムの防止である。第12条では、特定有害活動について「安全保障に支障を与える恐れのあるものを取得しようとするための活動…中略…外国の利益を図る目的で行われ、かつ、我が国及び国民の安全を著しく害し、又は、害する恐れのあるものをいう」と定義し、「恐れのあるもの」などと、きわめて曖昧であり、対象を恣意的に広げることが可能である。
 また、テロリズムについては「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、…中略…又は重要な施設その他のものを破壊するための活動」と定義し、これまた幅広い解釈が可能である。政府は、原発関係施設の警備等に関する情報について「テロ防止に関する事項として特定秘密に指定されるものもあり得る」(10月24日、内閣情報調査室)ことを明らかにするなど、原発等の反対運動もその対象とされ兼ねない危惧がある。
 特定秘密の指定は行政機関の長が行い、第三者の事前チェックがはたらかず、何を機密に指定したかも明らかにされない。このように法案は、何が秘密かが明確でなく、その対象も曖昧であり、対象範囲が広すぎる。
 
 特定秘密の指定期間についても、5年を期限とするものの延長が可能で、30年を超える場合は内閣の承認が必要という要件を定めてはいるが、永遠に秘密にすることが可能となる。また、秘密を解除したとしてもその取り扱いが定められていないなど、国が一方的に情報を秘匿することが可能である。
 1985年に時の政府が国会に提出し廃案となった「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」(以下、国家機密法案)と比べても、今回の法案は秘密の範囲は広範であり、市民活動も規制の対象になりかねず、「表現の自由(言論の自由・報道の自由・知る権利)」を制限しかねないものである。

 
4、行政機関の長による適性評価も問題が多い。適性評価は、特定秘密の取扱い業務を行うことが見込まれる「行政機関の職員」「契約業者の従業員」「警察職員」と広範囲に適用される。しかも評価と称して、①特定有害活動、テロ活動との関係、②家族・同居人の氏名、国籍、生年月日、③飲酒についての節度など、思想信条に関する活動やプライバシーまでもが調査の対象となる。また、対象者と対象者の知人等の関係者への質問、対象者からの資料の提出を求める権限を行政機関の長に与えている。
 適性評価は「対象者に告知した上で、同意を得て実施する」(第12条)とされているが、同意しなかった場合の不利益(恣意的な人事評価、昇任差別、思想信条の差別など)を防止することが困難となる可能性が高く、結果として対象者の人権が侵害される危険性は否定できない。
 行政機関が適性評価によって取得する個人情報については、「自ら利用し、又は提供してはならない」(第16条)としているが、契約終了した業者や退職者などの情報の取扱いが不明であり、行政機関は「必要な範囲を超えて、個人情報を保有してはならない」とする個人情報保護法の規定にも抵触する。

 
5、特定秘密の指定や解除、適性評価の実施の運用基準を定めるにあたって「優れた見識を有するものの意見を聞かなければならない」(第18条)」と有識者の意見を聞く仕組みを入れたが、そもそもこの法律制定の議論を行った有識者会議など、この間の政府の有識者会議は専門家や国民の意見が十分反映されていないことが指摘されており、この規定だけでこれまで述べた懸念は払拭できない。
 
 特定秘密保護法案は、政府へのチェック機能を低下させる懸念が各方面から指摘しされている。自民党の村上誠一郎衆議院議員は法案に反対した理由について「良心的な公務員が政府が国民の電話を傍聴していると暴露したらどうなるか。質問しても答えられなかった」(10月25日付東京新聞)と指摘しているように、政府内の違法行為を内部告発した場合の懸念も生じる。
 これに対して政府は、「公益通報者保護法で保護される」(10月24日、参議院予算委員会、森雅子担当相)というものの、現行でも内部告発には、さまざまな不利益が生じる懸念があるなかで、保護される保障は全くない。さらに法案では、10年以下の懲役という厳罰規定を設けているが、適性評価の実施と併せて、法案は「もの言わぬ公務員」づくりになりかねない。
 
 国会議員も特定秘密に関して、処罰の対象となり、議員質問や国政調査権の行使も事実上制限され、国会による行政機関の監視機能を低下させる危険性がある。また、裁判所に対する情報の提供範囲も限定され、特定秘密であることを理由に国が一方的に情報を秘匿できることとなり、立法と司法による行政のチェック機能が損なわかねない。

 
6、以上述べたように、特定秘密保護法案は、多岐にわたる懸念があり、政府の運用如何によっては、国民の表現の自由という憲法で保障された権利を奪いかねないし、憲法の基本原則である国民主権や民主主義を形骸化させ、三権分立のバランスをくずしかねないものである。
 このことは、国の有り様を大きく変えることになる。
 政府は、他国でも同様の制度があるというが、軍事力を背景に外交を展開する国の制度を、憲法9条で戦争を放棄した日本が持つ必要は全くない。それにもかかわらず政府が国家安全保障会議の設置と一体で今国会で成立を図ろうとすることは、集団的自衛権などの武力行使を視野に入れた秘密の保護を図ろうとする意図がうかがえる。しかも、通常国会でマイナンバー法を成立させ、個人情報の収集・管理が可能となったことをあわせて考えると、戦前のように政府が国民すべてを監視下に置くことが可能となる懸念も生じる。
 
 今必要なのは、政府がどのような情報を得て、どのように対応するのかなどの情報を明らかにさせることである。そのため情報の透明性を高め、国民や国会が行政を監視できる体制を拡充することである。
 このことは公務の公正・中立な運営に不可欠である。
 国公労連は、憲法で規定された「全体の奉仕者」として、また、「憲法尊重擁護の義務を負う」国家公務員労働者として、基本的人権を侵しかねない特定秘密保護法案に反対する。そして、民主的な行財政・司法の確立をめざす立場から、法案の問題点を明らかにしながら、幅広い団体、国民諸階層と連携して憲法で保障された権利を守るために力を尽くす。